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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
139/384

is she savior or not?_3

 蒼天に斬られてすぐに悌誉は意識を失っていた。

 斬られた体は傀骸装であったため命に別状はないが、激痛が走ることに違いはなく、そのまま倒れてしまったのだ。

 そして――悌誉が意識を取り戻した時。

 後頭部に柔らかい感触があった。肉体的な損傷はないのだが、まだ心なしか痛みが残っているような重苦しい気分で目を開くと、


「おはようございます、悌誉さん。随分と手酷くやられましたね」


 悌誉は信姫の膝の上で仰向けで寝ていた。


「……何をしてるんだお前?」


 照れ隠しなど微塵もない純粋な怒りと嫌悪を向けて信姫を睨む。信姫はそんな視線を軽く流して優しい微笑を向けた。


「見ての通り、悌誉さんを慰めてあげているのですよ」


 その言葉に生理的嫌悪を感じた悌誉は体を起こそうとするがうまく動かせない。


「無理をしてはいけませんよ」

「……私に、何かしたか?」


 おかしな薬でも盛られたかと悌誉は少し勘ぐった。


「いいえ何も。しかし悌誉さん」

「……なんだ?」

「凛々しくて整った顔立ちの貴女でも、やはり寝顔は可愛らしいものですね。もうあと一時間くらい寝ておきませんか?」

「やめろ、気持ち悪いことを言うな。おい、なんで頭を撫でる? 嫌がらせにしても趣味が悪すぎるぞ!!」

「悌誉さんは幼い頃にお母様を亡くされたのですよね。――私のことを母親と思って甘えてもいいのですよ?」


 そう語る信姫の顔はとても優しくて、とても穏やかで、慈愛に満ちていた。同い年のはずなのに大人びて見える顔立ちと品のある立ち居振る舞い。それを前にして悌誉は――。


「頼むからやめてくれ。そんなことを言われるくらいなら、用済みだと言って消されるほうがまだましだ」


 やはり、心底相容れなかった。

 その反応に少し残念そうな顔をしながら信姫は、


「私は元より、貴女を利用しようだなんて気持ちは毛頭ありませんよ。問題は――貴女がまだ、私に用が(・・・・)あるかどうか(・・・・・・)です(・・)


 と、真面目な顔をして聞いた。


「今回は阻まれました。しかし貴女は生きている。そして、貴女を蝕む彼の鬼の問題は何も解決していません」

「……」

「転生鬼籙は回収してあります。貴女がもう一度挑むというのであれば私は知識を貸しましょう。助力を求めるのであれば、邪魔をする者は誰であれ斬り伏せましょう」


 信姫は本気で言っている。

 不要な口は出さず、求められぬ助勢はせず。ただ悌誉の望んだだけの力を貸すつもりだ。

 しかしそれを強制することは決してなく、まず第一に悌誉の意志を尊重する。だからこそ信姫は悌誉に問いかけるのだ。

 そしてその問いかけに悌誉は、


「ないよ。わたしは――これから先、ずっと苦しむことになるとしても安楽な逃げには走らないと、ついさっき決めたんだ」


 きっぱりと、そう答えた。

 そして、悌誉が己の行く道を決めたのならば信姫はその決断を尊重する。


「そうですか。では、その魂の旅路に幸あれと願いましょう。たとえ次に会う時は敵同士だとしても」

「……」


 どうにも調子が狂う、と悌誉は思った。

 物言いが気に入らないし、色々と隠し事をしているように思う。なのにその口から発せられる言葉を疑おうという気にはまったくならない。


「……まあ、なんだ。ここまで色々としてくれたことについては、感謝はしているよ」

「悌誉さんが私に素直な言葉をかけてくれるというのは貴重ですね。その言葉が聞けただけでも尽力した甲斐があったというものです。いいこいいこ」


 そう言いながら信姫はまた悌誉の頭を優しく撫でる。まるで赤子をあやす母親のように。


「……お前には私がどう見えてるんだ?」

「とても可愛らしいですよ。まあ、ここまで骨を折った私へのお礼ということで、もう少しだけこうさせてください」


 率直な言葉をかけられてついに悌誉は観念した。先ほど礼を言った手前もある。


「……好きにしろ」


 考えることをやめ、しばらく信姫のなすがままにさせてやろうと悌誉は決めた。

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