is she savior or not?_2
『貴女の魂が救われる方法を教えてあげましょう』
信姫は悌誉を見るなりそう言った。
放課後、偶然図書室で会った時にいきなりである。
いきなり何を言い出すんだと悌誉は思った。信姫のことは名前と顔くらいは知っていたがそれだけで、親しく話したことなど一度もない。
それなのに何の会話もなく急にそんなことを言い出すものだから悌誉はあからさまに警戒心を抱いた。
『お前、頭大丈夫か?』
かなり直截に思ったことを口にした。
しかし信姫は怒ることもせずに、にこりと笑った。それは、どうも信姫にとっては親愛を示したつもりらしいのだが悌誉には毒婦の微笑みのように映った。
『ええ。少なくとも、夜ごと復讐鬼に脅かされている貴女よりは健全な精神をしていると思いますよ』
それでいて悌誉が、蒼天にさえ話していない悪夢の話をさも当然のような顔で話すものだから、悌誉はいよいよ警戒と敵意を持って信姫を睨み付けた。
『そんな怖い顔をしないでください。恐ろしくて――泣いてしまいそうですよ』
『そう言うなら少しでもそのフリくらいしたらどうだ? 傾城傾国という言葉が似合いそうな、ろくでもない顔をしているぞ』
悌誉が評した通り、信姫は整った顔立ちを、絶妙に間が抜けていて親しみやすくなるほどに崩して笑っていた。それは同性であっても見惚れてしまいそうなほどに美しく、悌誉でも気を抜けばつい気を許して取り込まれてしまいそうなほどであった。
『それは貴女の感想ですか? それとも――貴女の魂の言葉ですか? かつての君主がそういうものに溺れたからといって私に当たられても困ってしまいますよ?』
信姫は苛立つこともなく平然としている。
そして悌誉は信姫の言葉から、信姫が悌誉の事情を知っているのは本当だと感じた。だからこそ、それがとても癇に障る。
『おや、話が逸れましたね。では本題に入りましょう。貴女の魂から内なる復讐鬼を切り離す方法があるのですが――どうしますか?』
それは毒婦の甘言だと頭ではわかっていた。
しかし、精神的に追い詰められていた悌誉には、天から垂らされた蜘蛛の糸に見えてしまったのである。
たとえ登りきった先に待つ者が、仏でなく悪魔だとしても。
『……どうすれば、それが出来るんだ?』
そうして、悌誉は信姫の手を取った。