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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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feather into the river_4

 幼いころ、悌誉には兄がいた。父親と兄と悌誉の三人で、少し広めのマンションに住んでいた。

 母親は悌誉が小さい頃に病気で死んだらしく、写真を見たことはあっても記憶はほとんどない。

 友達が母親と仲良くしているのを見かけたりした時に、羨ましいなと思うことはあった。しかし、母親がいない自分を不幸だと思ったことはない。

 少し不器用だけど真面目で、いつも家族のことを第一に考えてくれた父。

 がさつで無神経だけど、悌誉のことを自慢の妹だと溺愛してくれた兄。

 二人の家族の存在が悌誉の心を満たしてくれていた。

 しかし――それは突然奪われた。

 悌誉が中学に上がってすぐの頃。たまたま、家に来た宅配物を悌誉が受け取った。父宛であり、ちょうどリビングにいた兄と二人で中身はなんだろうかと話していた。

 帰宅した父に荷物を見せると、送り主の名を見た途端に父は血相を変えた。そして二人に、伏せろ、と叫んだかと思うとその荷物を掴もうとした。

 そして――轟音が部屋中に響き渡った。荷物の中身は爆弾だったのだ。

 後に悌誉が知ったのは、送り主は父の会社の社長だということだ。その頃、その社長は反社会的組織とつるみ非合法なやり方で業績を伸ばしていたらしい。それに気付き糾弾した悌誉の父に警告のつもりで爆弾を送ったらしい。

 しかし、それは警告と言うにはあまりに強力な物だった。

 被害を少しでも食い止めようと爆弾に覆い被さった悌誉の父は即死であり、悌誉の兄は咄嗟に悌誉を庇い、爆発によって吹き飛ばされ、体を壁に叩きつけられた衝撃で脳を損傷して搬送先の病院で死亡した。

 悌誉だけが、わずかな打撲と擦過傷で済んだ。

 悌誉はたくさん泣き、そして――それ以上に、はち切れんばかりの怒りを燃やしていた。

 その怒りが、悌誉の中の魂を目覚めさせた。破荊(はけい)双策(そうさく)の能力が目覚めたのはこの頃の話である。

 その力の根源が何であるのか、その頃の悌誉はまだ知らなかった。ただ、これは復讐を為すために与えられた力だと思ったのである。

 そんな時、ある人物が悌誉に接触してきた。探偵を名乗る男だったが、本人は悌誉の前に顔を出さず、代理人を寄越して通話越しにしか話さない――何とも胡散臭い人物だった。


『君のお父さんから依頼されとってな。君のお父さんの会社の社長を調べてくれて。ああそれと、警察のあるお偉いさんとも連携して調べとったんやけど、このあたりはあちらさんの事情もあるから名前は出せへんねん。ごめんな』


 そう言って探偵の代理人はその社長の不正、犯罪の証拠をポンと、まだ中学生である悌誉に渡した。疑わしさしかないが、しかし渡された証拠は本物だった。


『これを出すとこに出せば君の家族を殺した犯人は破滅するやろ。それで死んだ人が帰ってくるわけちゃうけど、泣き寝入りするよりはええんちゃうか?』


 探偵が言ったのはそれだけで、それ以降、悌誉はその探偵と話していない。

 何か思惑があったのか。父が探偵に依頼したというのが本当なのか。そもそも、本当にこの男は探偵だったのか。

 だが悌誉にとってそんなことはどうでもよかった。

 悌誉にとって重要なのは、仇の名前がわかったということ。ならばやるべきことは一つ。

 その社長は次の日、焼死体で発見された。無論、悌誉が殺したのである。

 だがそれでは終わらなかった。

 その日から悌誉は悪夢を見続けることになる。

 その夢には鬼が現れ、夜毎迫ってくるのだ。これで終わっていいのかと。

 首謀者は死んだ。しかし探偵が渡してきたリストには他にも関係者の名前がずらりと並んでいる。共謀して利益を得ていた会社の重役。社長と結託して悪事を働いていた反社会的組織の名前、その構成員。爆弾を作った者、運んだ者の名前まであった。

 鬼は言う。

 根絶やしにしろ。皆殺せ。関わったもの、塵一つ残してはならぬと。そうせねば――父と兄は浮かばれぬと。

 鬼の声に賛同し、悌誉は事件に関わった者を殺し続けた。すると鬼は次は、その家族まで殺せと迫ってきた。

 悩むな。迷うな。躊躇うな。これはお前にある正当な権利である。為すべき行いである。

 その頃の悌誉は既に数えきれぬ人間を殺し続けたせいで心が磨耗していた。そして鬼の果てない怒りに染まりかけていた。

 しかし、仇の家族を前にして迷いが生じた。

 そこで悌誉が見たのは、家族の死に苦しみながらそれでも生きる人たちの姿だった。自分と同じように。

 自分のこれまでの行いは、自分と同じ境遇の人間を再現なく生み続ける行為だったのだと気づいた時には遅かった。

 あれは正しいことだった。殺されたのは因果応報で、その家族の苦しみはすべて、殺された者の行いに起因するのだ。

 そう自分に言い聞かせても、納得出来なかった。

 そして――それでもなお、心の奥底で怒りの炎を滾らせている自分が恐ろしかった。

 いつかこの炎が自分を呑み込んだその時、自分は理不尽を受けたことを免罪符として更なる理不尽を際限なく撒き散らし続ける怪物になってしまうだろうと思った。

 そんな日々を過ごしていた高校一年生の夏。

 ふと歩いていた夜の公園で、たまたま落ちていたロープを見つけた時、これで首を括ってしまおうかと考えた。


『む、なんじゃおぬし。ここは余のシマじゃ。無許可で立ち入るでない』


 悌誉が蒼天と出会ったのは、そんな時だった。

江底(かわぞこ)に 仄かに灯る(くら)き火に

(そら)より伸びる 羽根のひとひら

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