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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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ghostbusters

「蔵碓の……おっさん?」


 龍煇丸の台詞を仁吉はなんとなく復唱してしまった。言われた蔵碓は少し眉を細めている。


「そのだね、焱月くん。私と君は一つしか変わらないのだから……おっさんというのは、やめてもらえないかね?」

「えー、でも蔵碓さんて高校生には見えないぜ? 落ち着きとか体格とか威厳とか。大人びてて普通にお酒とか煙草とか買えそうなツラしてるじゃん?」


 にこにこと笑顔で言う龍煇丸に悪意はなさそうだ。きっとそれは褒め言葉のつもりで、大人びているというのも純粋な感想なのだろう。

 しかし言われたほうの蔵碓は言葉を返さず、うむ、とかああ、とか言いながら眼鏡に左手をあてている。


「やめてくれよ。こいつはこのガタイのくせして年相応に見られなかったり顔が怖いのを気にしてるんだ。気にしだすと、拗ねて会話を放棄するところまではいかないけれど地味に面倒くさいんだからさ」


 仁吉の言葉を聞いて蔵碓は背を少し丸めてうつむいた。


「えー、いいじゃん別に。大人っぽいって褒め言葉じゃねーの? しっかりしてるってことだしさ」

「しっかりしてるのはそうだけど、こいつの場合は変に古風な喋り方と老け顔が大半だよ。何回言っても、事あるごとに『そんなに私の顔は怖いのだろうか?』とか聞かれたって、『そうだな』以外になんて返せばいいんだ?」


 仁吉は龍煇丸を押さえ付けながらこの会話をしている。そして龍煇丸は特にその状況に抵抗しようという様子がない。


「それで蔵碓。落ち込んでるとこ悪いな、とは微塵も思ってないんだけどさ。お前、こいつと知り合いなのか?」


 仁吉は容赦なく言う。その声には主に龍煇丸への苛立ちが混ざっていた。


「う、うむ。なんと説明したものか……?」


 蔵碓は少し考え込んでいる。そこへ龍煇丸が、


「あ、蔵碓のオッサン。心配しなくてもこの人こっち側だぜ。つーかなんでか傀骸装も使ってる」


 と、蔵碓の懸念を晴らすように言った。


「何? 仁吉、それは本当か?」


 そう驚きの声をあげる蔵碓だが、仁吉はここまでの話の流れが何一つわからない。


「本当も何も――何もわかんないんだよ僕は。そのクガイソウとやらが何なのか、お前とこいつがどういう関係なのか、一から説明しろ!!」

「――わかった。ただし、まずはお前の事情から説明してくれないか? はぐらかそうとしているのではなく、何を説明すればいいのかを教えてほしい」

「……ああ、わかったよ。そのあたりはお前のことを疑ってはないさ」

「それとだな……」

「……なんだよ?」

「まずは、焱月くんを離してはどうかね?」


 蔵碓の声は少し厳しくなっていた。仁吉は深くため息をつき、その手を離した。


「……言っておくけど、僕は因縁つけられた側だからな?」


 そして弁明するように言った。もっとも、事実そのままなのだが仁吉は少しバツの悪そうである。


「うんそだよ。だって何か嫌な気配するし、それに傀骸装使ってる時点で堅気じゃねーなって。それ、どこで手に入れたの?」

「夢の中で虎に貰ったんだよ」


 龍煇丸に問い詰められて仁吉はあっさりとそう言った。これも事実ではあるのだが仁吉のぞんざいな説明のせいで蔵碓は首をかしげている。

 しかし龍煇丸は、


「そっか。ならしゃーねーな」


 と、その説明で納得していた。それは会話が面倒だからという風ではない。

 しかし蔵碓の反応を見て、さすがに言葉が足りなさ過ぎたと自覚した仁吉は補足する。


「一週間ほど前かな。ほら、聖火と仁美が校舎で迷子になったあの日だ。二人を探してる時に校舎で蛇の怪物みたいなのに襲われてな。その時に夢で虎に遭って、これを手にしてた」


 そう言って仁吉は懐を探り白い珠を取り出す。


「これは……焱月くんの宝珠と似ているな」

「てか宝珠だよ。俺は“造られた”側だけど、もしかして先天的な素質があったんじゃない? 血筋とかさ?」

「どういうことだよ?」

「よーするにさ、この宝珠と、それに連なる力はロストテクノロジーなんだよ。古代の魔法……あいつらは仙術とかって呼んでたかな? 世界には魔術師ってのが本当にいて、不思議な術があるんだ。だけどその不思議な術の中でも大昔に造られて理論だけが失伝したのがあってね」


 少し前の仁吉ならばライトノベルの読みすぎと一蹴していただろう。しかしここまで様々な未知を経験した今では龍煇丸の言葉を否定出来ない。


「んでさ、俺はそーいうロストテクノロジーを復活させようとしてる悪の組織の実験台にされてたんだ。ショッカーみたいなもんだね」

「石ノ森ワールドみたいな話だな」

「ま、その組織は俺が潰したからもうないんだけどね。実験の時に暴走したらしくて、研究所から何から全部綺麗に消えたよ」


 事実だとすればそれなりに重い話のはずなのだが、世間話のように話す龍煇丸のせいで仁吉は今一つ緊張感が持てないでいる。


「んで、潰した後にその組織を倒しにやってきた検非違使(けびいし)に保護されて今こんな感じ」

「けびいし? あー、なんか日本史でやったな。平安時代の警察みたいなものだったっけ?」


 仁吉は歴史が特別好きというわけではないので、授業の知識を手繰り寄せながら聞いた。蔵碓はそれに頷く。


「うむ。表向きは律令制下における治安維持組織でな。弘仁年間に置かれた時にはその制度通りの官職だったのだがやがて怪異の頻出に伴い陰陽寮だけで対処しきれぬ怪異の討伐のため、京を中心とした各律令国に置かれることとなった。そして今も政府の下、怪異に対処する組織として存在している術者の集まりだ」

「……なんて?」


 言いたいことはなんとなくわかるのだが、堅苦しい言い回しのせいか仁吉は思わず聞き返してしまった。


「よーするに、その昔に天皇陛下が作った対ゴーストバスター集団が形を変えて今もあるよってこと。バケモノ、みたんだろ? あーいうの倒すのが俺らの仕事なんだよ」

「……なるほど」


 釈然としない顔で仁吉は頷く。


(くそ、こいつのいいかげんで緩い説明のほうがわかりやすいのムカつくな)


 それが仁吉の気に入らないところだった。

 そして、


「『あなたが他人に何かを隠しているとき、世界はその何十倍もの真実をあなたに隠している』か」


 と、自分の好きな作家の言葉を思い出してポツリと呟いた。

『あなたが他人に~隠している』:電撃文庫、著・上遠野浩平『夜明けのブギーポップ』p132より

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