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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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body for fighting_2

 悌誉と蒼天たちとの戦いに決着がついたその頃。

 仁吉と龍煇丸の戦いは泥沼の様相を呈していた。

 当然と言えば当然のことである。互いに片手しか使えず、しかも仁吉は満身創痍だ。合気や投げなどの技を使おうにも巧く出せず、手にしていた鉤爪――骨喰(ほねばみ)も消失してしまった。

 龍煇丸の方はまだ片手にトンファーはあるがそれだけで、器用な技などを使う気配すらない。

 必然、拳と蹴りの応酬となる。駆け引きも何もない。


「……そろそろ、観念したらどうだよこのじゃじゃ馬?」


 仁吉は疲れきった声で言う。

 しかし龍煇丸は、


「なんだよ。こっからが楽しいところじゃんか。せっかく暖まってきたところなんだしよ」


 あちこちを殴打されてボロボロになりながら、なおも笑っている。


「お前さ。もう、僕から嫌な奴の気配がするとか、どうでもよくなってないか?」

「いやぁ、それは実際今もしてるぜ。でもまあそれ以上に楽しくってさ。だけど――そうだな、そろそろ楽にしてやるよ」


 龍煇丸の笑みが凶悪さを増す。そして腰を落とし左手のトンファーを持ち上げる構えを取った。

 何をしようとしているかはわからない。

 しかしその先にやろうとしていることをさせてはならないと本能で感じた。

 仁吉が走り出す。

 しかし――遂に限界が来た。足がもつれ、体が前のめりに倒れる。それを見た龍煇丸は、動き出そうとしていた体を咄嗟に止めた。

 だが仁吉はそれに気づかない。隙を見せてしまったと不覚を悟り、そのまま転げないように足に力を込めた。


「動……けッッ!!」


 地面を思い切り蹴りつけて、倒れかけの体を無理やり前へ飛ばす。その行動に龍煇丸は満面の笑みを浮かべ、止めかけていた動作を再開しようとして――しかし動けなかった。

 龍煇丸が見たのは、なかったはずの左腕がある仁吉の姿だったからだ。


(これは――作り直した? いや、傀骸装が(・・・・)解けたのか(・・・・・)!?)


 傀骸装(くがいそう)

 泰伯や蒼天は換装と呼ぶ、魔力で作られた戦闘用の体。脳と心臓、その二つを繋ぐ首を切断されれば死に到るが、それ以外の部位であれば戦闘で負傷や欠損をしても解除すればなかったことになる。そして魔力がある限りは何回でも作り直すことが可能だ。

 しかし作り直す際に隙が生じるし、それなりの魔力を必要とする。今の仁吉にその余力は残っていない。

 単純に、維持に必要な魔力もなくなって強制的に解除されただけである。

 普通ならばそれは致命的なことだ。

 しかし今はそれが良いように作用した。龍煇丸の動きが止まったその隙に仁吉はその左手を掴み投げたのである。

 疲労はもちろんある。しかし腕が戻り怪我も消えたという利点のほうが大きい。そうして龍煇丸の体を地面に抑え込んだ。


「……これで、どうだ? 今度こそ降参するか? それとも――反対の腕も折られたいか?」


 脅すように仁吉は言う。龍煇丸はそこで、観念したように笑った。


「いや、止めとくよ。参った」


 そう言って左手のトンファーを手離した。

 しかしこれからどうすべきかと仁吉は少し考える。武器こそ手離しはしたが、この状態のままいるわけにはいかない。

 かといって拘束するような道具もない。しかしここで手を離せばまた襲いかかってくるかもしれない。

 考えあぐねていた時に。


「……仁吉。何をしているんだ?」


 とても聞き馴染んだ声がした。

 仁吉の幼馴染み、眼鏡を掛けた和服の巨漢。坂弓高校の生徒会長である崇禅寺(そうぜんじ)蔵碓(くらうす)がそこに立っていた。

 蔵碓は仁吉のことを不審そうな目で見ている。


「――見てわからないか? 正当防衛だよ」


 仁吉はぞんざいな声で言った。

 そして、


「あれ、蔵碓のオッサンじゃん」


 龍煇丸は蔵碓のことを、気安くそう呼んだ。

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