feather into the river_3
泰伯は悌誉の攻撃――風林火山陰雷を防げたわけではない。その直前まで炎の巨人の大剣に対応しており躱す余裕などなかった。
それでも、吹き飛ばされながら無斬を振るってその威力を僅かに削いでいたのだ。無斬の“対象を斬るように意識して振るえば何でも斬れる”という特性を活用した結果である。
とはいえ僅かにダメージを減らす程度であり、どうにか死なず換装も解けなかったというくらいである。
なので今、泰伯を突き動かしているのはただただ意地だ。
約束したのだから、心に決めたのだから、それを曲げたくないという個人的な信念である。
その信念で体を起こし、駆け、炎の巨人の一撃を止め――その刃に黒い疾風を纏わせる。
余力などない。換装も遠隔斬撃などの技もすべて魔力を消費することで発動させており、換装を繰り返すと技は打てなくなるし、技に魔力を使いすぎると換装が維持出来なくなるとも犾治郎から聞かされていた。
その上で泰伯は、だからどうした、と思う。
無駄に死ぬのは嫌だ。だからといって、勝機を前に余力を気にして踏み込めないような無様を晒すのも耐えられない。
そんなことをすれば――自分が自分を許せないから。
だから泰伯は何の躊躇いもなく、無斬に纏わせた風を炎の巨人に向けて放つ。
「破軍風刃!!」
黒い颶風が炎の巨人の首を目掛けて飛ぶ。そして同時に、泰伯の換装は解けていた。
風の刃は大剣を砕き――その首を両断した。
「今だ三国さん――君の手で、終わらせろ!!」
最後にそう、渾身の叫びを上げた。
蒼天はその声を受けて、再び戈を作り出し悌誉のほうへ駆けていく。
(桧楯といい、ヤスタケどのといい……このあほたわけ共め!!)
二人にとって蒼天も悌誉も、所詮は付き合いの浅い他人である。助力を頼んだ時の誠意に嘘はないが、しかし見返りを提示したわけではない。
そんな蒼天のために二人は持ちうるすべてを発揮して戦ってくれた。何の得にもならないのに。誰に認められるわけでもないのに。
そんな二人のことを度しがたいと思う。
そして――とても眩しいと思う。
かつて、楚の王として生きていた頃の自分はそんなことは思いもしなかった。
人は損得で動く。そうでなければ、忠義のような、自分の背にある父祖の恩を返すために働く。それが当然で、それ以外に人を突き動かすものなどないと思っていた。
(この二人の助勢を得られたこと。こんな幸甚はない!! だからこそ余は、必ず悌誉姉を救わねばならぬ!! この二人に――笑って感謝を告げなければならぬのじゃ!!)
自然と、戈を握る手に力が入る。
その決死の顔を前にして悌誉は、鞭を握る手が思わず緩んでしまった。
「う、おおおおォォォォッッッッ!!!!」
迷いなく蒼天は戈を横薙ぎに振るう。
そして、悌誉の体を腰のところで両断した。