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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
127/384

you are bad at lying

 全身が痛む。

 あちこちに色々な攻撃を受けすぎたせいで、もはや仁吉はどの傷がどう影響して体に悪影響を与えているのかわかっていない。

 それでも――今、この右手にある痺れに似た感覚だけにははっきりと心当たりがあった。


「しかし、大したもんじゃんかアンタ」


 そんなことを考えているとは知らず、龍煇丸は素直な称賛を仁吉に贈る。


「チキンな奴なら日和って腕を離しちまうもんだが、しっかり離さず折ってくれたね」

「……腕折られて喜ぶなよこのマゾヒストめ」


 龍煇丸は仁吉が自身の捨て身に対して反射的に手を離さなかった、その度胸を喜んでいる。

 それでこそ戦い甲斐があると。

 しかし仁吉は、腕一本折ることで龍煇丸の力を削いだと思う気にはならなかった。


「――嫌いなんだよ、この感じはさ。相手がお前みたいな奴でもな」


 そう毒づく仁吉にあるのは、優しさではない。

 自分はこんなことは嫌なのに、折らせるような行動をしやがってという恨み言である。


「さっきまであんなにボコボコにしてくれたじゃんか?」

「それだって別に好きじゃないよ。だけど骨を折る感覚は段違いに嫌いでね。わかりやすく――人を壊してるような気分になるだろう?」

 

 南方仁吉は戦いが嫌いだ。

 それは平和な国に生まれた学生として至極真っ当な感性である。

 しかし武道に精通し、必要とあればそこに躊躇がなくなるというところが仁吉の、平凡に近くとも非凡であるところだ。


「それがいいんだよ。俺だって別に一方的に相手をいたぶるのが好きなわけじゃねーぜ。ぶっ壊してぶっ壊されて、その中で命を滾らせられるから戦いってのは楽しいんじゃねーか」


 対して龍煇丸にはそのような感性はないらしい。

 戦うことが大好きで、敵を壊すことに忌避はない。しかし一方的な蹂躙はつまらない。

 だから今こうして、腕を折られたことよりも仁吉の抵抗そのものを純粋に喜んでいるのだ。


「野蛮な感性だな」


 見下げるように仁吉は呟く。


「そうか? 人間だって所詮は獣だぜ?」

「無意味に枠を広げて括るなよ。確かにそうだけど、獣にだって種類があってその数だけ生き方があるんだ。お前のそれは虎や狼なんかの本能で、人の生き方じゃない」


 大真面目に仁吉は言う。

 人も獣というその言葉自体は間違っていない。しかし、だからといって自由奔放に、何も気にせずに生きるのは人間的ではないと仁吉は強く思うのだ。

 しかしその言葉を聞いた龍煇丸は、はじめて笑みを顔から消して訝しげな目で仁吉を見た。


「アンタさ――嘘が下手だね」

「……なんだって?」

「確かに戦うのは好きじゃないんだろうさ。俺みたいなのが野蛮な獣に見えるってのもまあ本音だろーぜ。でもそんなのは建前だ。理性で押さえ付けてるとかバレたくないから隠してるとかじゃなくて――飾らない生き方への憧れが見えるぜ」

「あるわけないだろう、そんなもの」


 そう言いながらも仁吉はつい先ほど凰琦丸に言われたことを思い出していた。


『素直ではありませんね、貴方は』

『本当は彼のことを――殺してやりたいと思っているのでしょう?』


 それが見当外れな指摘だから腹が立つのか。

 あるいは――自分でも気づいていない本心を暴かれたのが嫌なのかはわからない。

 だが――。


「それはそれとして――。あれだけ蹴りつけて溜飲が下がったと思ってたんだけどな」


 今まで以上に敵意をむき出しにして仁吉は龍煇丸を見る。徹底的に痛め付けてやりたいと心の底から思った。


(こころ)に素直になるなら笑えよ。そのほうが気持ちがいーぜ」


 向けられる敵意を龍煇丸は心地よさそうに受け止めて再び笑った。

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