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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
126/387

modern magic

 校舎の玄関口にて。

 仁吉は突如自分を襲撃してきた、焱月(えんげつ)龍煇丸(りゅうきまる)と名乗る少女と交戦していた。

 そして、散々に殴られつつどうにかその手を掴んだ。

 とはいえ仁吉は満身創痍であり、しかも隻腕だ。振りほどくことなど容易いと龍輝丸は考えていたのだが、


「すごいねこれ。マジで全然動かないや」


 逃れるどころか身動きすら取れない。

 しかしそれすら龍煇丸は、知らないおもちゃを渡された子供のように無邪気に楽しんでいる。


「なんかの術式か? でもアンタ、そーいうの得意そうには見えないけどね?」

「いいや、術だよ。武術家、武田(たけだ)惣角(そうかく)の門を叩いた天才、植芝(うえしば)盛平(もりへい)によって完成された近代の魔法さ」

「なるほど――合気か」


 仁吉の仰々しく、それでいて説明する気のない言葉で、しかし龍煇丸はあっさりとそれが何なのかを理解した。


「意外に物知りじゃないか。――知性の欠片もなさそうな顔をしているくせに」

「知り合いに達人がいてね。とはいえ実戦の中でこれだけ綺麗に決められるとは思わなかったよ」


 感心しながらも龍煇丸は力を込めたり、逆に全身の力を抜くことで仁吉の手を振りほどこうと試みてはいる。

 しかし仁吉はその度に加減を変えてしっかりと龍煇丸を制しておりまるで効果はなかった。

 そして、仁吉は今まで動きを見せなかったかと思うと急に自分の手を引いた。

 龍煇丸の体が酔っぱらいのように千鳥足になってよろめく。

 そこに仁吉は、掴んだ手はそのままに連続して蹴りを叩き込んだ。下顎、脇腹、向こう脛へと繰り出される蹴りに龍煇丸は一つも対応することが出来ない。


「合気使いじゃないのかよアンタ?」

「知り合いの達人は教えてくれなかったのかい? 投げ、極め、当身――全部やるのが合気道だってね。だからもちろん、こういうことも出来るよ!!」


 そう言いながら仁吉は龍煇丸の体を片手で引っ張って転ばし、それと同時に手を離しうつ伏せに倒れこんだ龍煇丸の背に乗って体重をかけ、その左手を掴んで上げた。


「うわすっげ、よく片手でそれ出来るね。俺だってそれなりに稽古はしてるつもりなんだけどな」

「そう大したことじゃないよ。世の中にはもっと曲芸染みた技を澄ました顔でやってくる人間だっているからな」


 話しながらも仁吉は腕に込めた力を抜くことはないし、押さえつけるのにも全力だ。そして、油断さえしなければここから力付くで抜け出されることはないという自信があった。


「さて、そろそろ無駄な足掻きはやめたらどうだい? 僕だって鬼じゃないんだ。今なら土下座と腕一本と武器の没収くらいで許してやってもいいんだけど?」

「ははっ、確かにそりゃ随分と紳士的な対応だね。優しすぎて惚れちゃいそうだよ」

「やめてくれよ。冗談にしてはタチが悪すぎる」


 それは心の底からの言葉である。体の痛みとは別の理由で全身に寒気が走るのを覚えた。

 焱月龍煇丸という少女は、顔だけを見れば間違いなく美少女だ。眼帯をしてはいるが、隠されていないほうはパッチリとした大きなアーモンド型をしている。顔も全体的に均整が取れており、美少女、または美人と評される類いだろう。

 だが仁吉はそんなことなど全く思わなかった。考える余裕などなかった。

 この状況を生きて乗り越えること。それが仁吉の最優先事項である。


「なんだよ、つれねーな。しかしまあなんだ、男性の好意は素直に受け取っとくのがモテる女子の秘訣とは聞くが――生憎、俺はじゃじゃ馬でね」

「んなもの、見ればわかるよ」

「だから――一つだけ(・・・・)くれてやるよ(・・・・・・)


 そう言って笑うと龍煇丸は、持ち上げられたままの右手に強引に体重をかけた。仁吉は力を掛け続けているがお構い無しである。

 そして仁吉の右手は、龍煇丸の二の腕の骨が折れたのを感じ取った。そのせいで抑え技が効きにくくなったところを狙って横に転がることで仁吉の拘束から脱したのだ。


「さあ、これで互いに腕一本だ。こっちもけっこう殴られたしだいたいフェアだろ?」


 折れた腕をだらりと下げながら、しかし龍煇丸は嬉々としている。

 その時、仁吉の目は龍煇丸をみておらず、自分の右手のほうへ視線を向けていた。

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