The greed_2
かつて――一国の君主であった頃の己はどんな人間だっただろうかと蒼天は思う。
愚かだったとは思わない。
しかし時に独善的であり、周囲を省みない性格でもあったような気がする。
その才覚で国を強くしたのは確かだが、しかし同時に間違いも多く犯してきた。
そしてその、己が正しければ他者に有無を言わせぬ気質は今の蒼天にも受け継がれている。
逆らう者は除けばいい。君主にはそれが許される。己の差配で一国を取り仕切り、功も罪も己一人で背負う。それこそが王位にある者の特権だと思っていた。
しかし――己の決断に否を唱えて譲らぬ者はいた。しかもその者はそれを利己ではなく国の為に叫ぶのだ。
不興を買うことを厭わず。命すら惜しまずに。
そういった者――社稷の臣と言うべき者の言葉を、最後に荘王は容れてきた。
それこそが荘王が名君たる所以である。
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桧楯に殴られてあちこち痛む体を擦りながら蒼天は、しかしどこか嬉しそうだった。
対して桧楯は先ほどまでの剣幕は見る影もなく、小さな体をよりいっそう縮こまらせている。
「どうしたヒタチ、元気がないの」
「い、いえその……。さっきはその、ごめんなさいッス。流石にちょっとやりすぎたかなって」
「ま、気にするでない。おぬしには感謝しておる故に怒ってはおらぬ。忠言は耳に痛いが、それを容れて道を正すのが善き君主というものよ」
『……音だけ聞いてると物理的に痛そうだったけどね』
泰伯の言葉に桧楯がさらに沈む。しかし蒼天はそんなことは気にせずに笑った。
「もう落ち込むでないヒタチよ。余はむしろ懐かしい気分じゃぞ。昔、申叔時に諌められる時はこんな風であった気がするの」
『その話、詳しくきかせてくれないかな?』
歴史の話になりそうな気配を察して泰伯の声が弾んだ。
「時間があるときなら構わぬが……言ってて少し悲しくなるが、こんなことを知っておったところで世界史にも受験にも役には立たぬぞ?」
『好きなんだからいいじゃないか。古い歴史のことについて知ることは、僕にとって特撮や何かを見るのと変わらないよ』
そういうものか、と思いながら蒼天は少しだけ気分をよくした。前世とは言えど自分の生きた時代の話が今に伝わり、それを好む人間がいるというのは悪い気はしないからだ。
『ところでさ』
そこで泰伯は話題を変えた。
「どうしたヤスタケどの?」
『三国さんの兵士たち、かなり押し返されてるけどどうする?』
「へ?」
蒼天は間抜けな声をあげた。見ると泰伯の言うとおり、召喚した軍の三分の一ほどが既に骸骨の兵士たちによって倒されている。
「い、いつからじゃ?」
『君たちがチャリオットの上で揉め出したあたりからだね。兵士たちが統率を失った感じで、各々攻めたり守ったりばらばらな動きを取り初めてたよ』
「その時に言わんか!!」
『いや、大事な話だと思ったから』
「ご、ごめんなさいッス……」
蒼天は焦り、桧楯は申し訳なさで萎縮している。
しかし泰伯は二人のそんな様子を特に気にすることもなく、
『まあ大丈夫だよ。彼女の炎のラインの法則はだいたいわかったからさ』
と、事も無げに言った。