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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
119/390

三年不蜚不鳴

 春秋時代南方、()国。

 熊侶(ゆうりょ)という姓名の王が楚の君主として即位した。しかし若年で即位したこの王はすぐに謀反を起こされ、拘束され拉致された。

 幸いにして、謀反人はすぐに殺され熊侶もすぐに首都へ戻ることは出来たが、この一事は若き王を疑心暗鬼にするのに十分過ぎた。

 帰国した熊侶はすぐに後宮に引きこもると酒と女に溺れる生活を始め、三年の間政治をしなかった。どころか、それを諌める者は死罪にすると布告したのである。

 ところがある時、伍挙(ごきょ)という臣が熊侶の前に現れてある問いかけをした。


『三年の間、一度も飛ぶことをせず鳴き声もあげない鳥がいます。この鳥は何でしょうか?』


 熊侶への批判を例え話で伝えたのである。

 熊侶はこれに、


『三年飛ばずの鳥は一度飛べば天へと()び、鳴けば大いに人を驚かすであろう』


 と答えた。そして、


『余はそなたの言いたいことはわかっておる。心配いたすな』


 と言って帰した。

 しかし熊侶の淫蕩は止まらなかった。ついに大夫――大臣の()という者が死罪を承知の上で熊侶を諌めた。


『布告を覚えておらぬのか?』


 と熊侶が聞いても大夫蘇は、


『それで貴方の目が覚めるのであれば本望です』


 と臆すことなく答えた。

 それを聞いた熊侶はついに立ち上がり、伍挙と大夫蘇を筆頭に、三年間で密かに目を付けていた有能な者、誠実な者を重用し、逆に熊侶の目がないのを良いことに私腹を肥やしていた者を処刑して革新に乗り出した。

 現代における『鳴かず飛ばず』はうだつの上がらぬ者の意味だが、元は『雌伏し機会を窺う者』という意味で使われる。

 そして熊侶は有能な臣を多く率い、中国中心部――中原(ちゅうげん)の地にて諸侯を纏め天下を差配する大国、(しん)を打破した。

 その(おくりな)荘王(そうおう)と言う。


 **


 蒼天の叫びに応じて現れたのは、白いオーラのようなもので形成された軍団だった。

 悌誉の召還したものはいかにも異形であり百鬼夜行とも呼ぶべきものだが、蒼天の軍にそういった特徴的な奇抜さはない。

 しかし、ひたすらに数が多い。

 間違いなく悌誉が召還した骸骨の兵士たちの三倍の数はいる。しかも兵士は歩兵もいるが大半がチャリオットに乗っており、チャリオット一台に御者と兵士が二人ということを考えると実数的な差はそれ以上だろう。

 そしてその軍のうち、十台ほどのチャリオットはすぐさま泰伯の元へ向かい悌誉の視線から隠すように泰伯を取り囲む。


『今のうちに換装するがよいヤスタケどの』

「あ、ああ……。ありがとう。しかし君が五覇の一人、あの荘王だとはね……」


 春秋時代に諸侯を纏めあげ覇者と呼ばれた五人の君主がいる。どの五人を指すかは書物によって差異があるのだが、楚の荘王は多くの書物でその中に数えられている。


『ふ、余が覇者などであるものか。大陸に覇を唱える者という意味での覇者ならば間違いではないかもしれんがの!!』


 しかし蒼天は、覇者という言葉をどこか鼻で嗤うように言った。

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