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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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the worst isn't over_3

 焱月(えんげつ)龍煇丸(りゅうきまる)

 仁吉の前に現れた銀髪の少女はそう名乗った。

 無論、口頭ではどんな字なのかまではわからない。しかし音からわかるだけでも、否応なく思い当たることがある。


(ビョウゲツとエンゲツ、オウキマルとリュウキマル……。偶然というにはあまりに似過ぎてるな)


 聞いてみるかと少し考えて仁吉はすぐにその思考を否定した。

 もし凰琦丸と縁があるとして、この状況が好転することはないと思ったからだ。むしろ悪い方に目をつけられる可能性のほうが高い。


「ところでアンタさ、傀骸装(くがいそう)作り直さなくていいのか?」


 そんな逡巡など龍煇丸は当然わからない。むしろそれを、違うことへの悩みと感じたようで仁吉にそう聞いた。


「……なんだって?」

 

 聞き覚えのない単語に仁吉は目を細める。


「別にそれくらいら待ってやるぜ。万全とはいかなくてもそのままのアンタとじゃ存分に楽しめそうにないからな」


 何のことか相変わらず仁吉にはわからない。

 さりとて迂闊に聞き返していいものか考えていると、その沈黙を龍煇丸は好意の否定と捉えた。


「ふーん、まあいーぜ。警戒してんのか、縛りプレイが好きなのかは知らないけどその気がないならもう待ってやる義理もない――いくぜ」


 その言葉を合図に龍煇丸が仁吉に走ってくる。

 速さは、やはり人並みではない。だが今の仁吉ならば目で追えないというわけでもない。

 問題は、目で追えるからといって避けられるほどに仁吉に余力がないということだ。

 龍煇丸が仁吉目掛けて右アッパーを繰り出す。それはあっさりと仁吉の顎に辺り、その体を数メートルも宙へと吹き飛ばした。


「おいおい、そのズタボロで戦うと決めたのはお前だろ? ならもうちょい気張れよな」


 つまらなさそうに言う龍煇丸を仁吉は、顔は見えないが全力で睨んだ。そのまま地面に落ちるところで追撃を警戒したが来ない。

 それでも激痛と、左腕がないことでその着地はかなりよろけたものとなる。


「へー、転げずに着地出来たじゃん。えらいえらい。んじゃ――次、行くぜ」


 着地を待つように接敵してきた龍煇丸は左右の腕で交互にトンファーを繰り出してくる。

 もはや仁吉は全身を走る激痛など無視してひたすらに避けるしかなかった。

 先ほどの一撃だけで口の中が切れている。歯も何本か折れただろうし、下顎の感覚など当然ない。折れた歯と血の混じる最悪の感触が口内に広がっているが、それすらもどうでもよかった。

 それでも必死になって龍煇丸の攻撃を避けていたその時である。

 仁吉の体がぐらりと大きく後ろに倒れた。足がもつれたのである。

 好機と見て龍煇丸は前のめりになりながら倒れ込む仁吉の顔面目掛けてトンファーを振るう。

 その顔目掛けて仁吉は思い切り、口の中の血を吐きつけた。

 反射で龍煇丸が目を瞑る。仁吉はその瞬間、後ろに倒れながら右足で蹴りを放って龍煇丸の顎を蹴りつけた。

 蹴りは直撃し龍煇丸の動きが止まる。

 仁吉は無理矢理に左足を後ろについてがむしゃらに地面を蹴って前に出た。そして、龍煇丸の左手首を掴む。

 押さえられた。

 それは龍煇丸もすぐにわかる。しかし片腕で、しかも疲弊している相手などすぐに振りほどけると考えたのだが――。


「――へぇ、なるほど」


 押さえられた左手首に奇妙な感覚を受けた。予想外で、そして龍煇丸にとっては不覚である。しかしその仁吉の攻撃を前に龍煇丸はかえって嬉しそうに笑った。


「いいねアンタ――俺が負けたら抱かせてやろうか?」

「君みたいなのはタイプじゃないんだ。黒髪ロングにして出直してこいよ」


 半ば以上がヤケで、喋ることによる痛みも意に介さず、そして自分でもよくわからないままに仁吉はそう叫び返していた。

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