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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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the worst isn't over_2

 仁吉は重い体を引きずりながら格技場を出た。

 目指すのは、さしあたって教室が集まっている東棟だ。人手が集まらなかった結果、聖火と仁美が二人でそちらを見回ることになっていたからだ。

 千鳥足ではあるがどうにか体は動く。軋む体に鞭打ちながら仁吉は足を前に進めた。

 しかし一方で、仁吉は二人が無事でいる可能性はそう高くないとも思っている。

 それでも希望に縋るしかないのが今の仁吉だ。

 少しでも体を動かす。その他に出来ることといえばただ祈ることくらいのものだ。


(頼むから無事でいてくれよ二人とも。それと……もう、これ以上ヤバい奴とエンカウントしてくれるなよ)


 どちらも仁吉の切実な願いだった。

 そして、少なくとも後者の願いはあっさりと打ち砕かれることとなる。

 それは仁吉が玄関口に着いたその時に起きた。

 殺意を向けられている、と感じた。

 荒々しく、しかも自分を狙っているというのを隠そうともしない剥き出しのものだ。

 凰琦丸のそれが研ぎ澄まされ、一点を狙い定める槍のようなものだとすれば、今向けられているのは弾幕のように全身を包み込んでくるような無差別なものだった。


「……僕、急いでるんだけどさ。何か用かな?」


 出せるだけ大きな声で仁吉は叫ぶ。

 相手がその存在を隠す気もなく、隠れるつもりすらないのならば下手な駆け引きは無駄だからだ。

 そしてその敵も、仁吉の推測通りに忍ぶつもりはないらしくすんなりと仁吉の前に姿を見せた。


「よお、苦労人面のイケメンさん。アンタさ――嫌な奴の匂いがするね」


 その言葉を聞いた仁吉はまず心底うんざりとした。何故一日に二度も、そんな抽象的な理由で殺意を向けられなければならないのかと。

 しかし次に相手の容姿を見て、少し警戒した。

 仁吉の目の前に現れたのは女子生徒だった。

 おそらく同学年ではない。

 黒いワイシャツの上に紺色のブレザーを着た短髪の少女。ズボンは黒で、それだけならば私服校の坂弓高校ではそうおかしな格好ではない。

 髪の色が、雪原のような輝く銀色をしている。

 そして左目を黒い眼帯で隠していた。


(……いや、左目か。得物は……鉄製のトンファーだね。ならば少なくとも“あいつ”ではなさそうだ)


 そこで一つだけ、仁吉のある懸念が消えた。

 しかし現状が改善したわけではない。


「……気のせいじゃないかな? だいたい、その嫌な奴って誰のことだい?」


 無駄な抵抗と半ば諦めつつも仁吉は、とりあえず事を荒立てない方向に話を持っていこうとした。

 しかし銀髪の少女は、


「さあね? 嫌な奴は嫌な奴だよ」


 と雑な答えで、しかもそれを誤魔化そうとすらしない。


「つー訳でとりあえず倒されてくれよ。アンタを放って他所にいくの、なんか胸の奥がむずむずして気持ち悪いんだわ」

「……さっきも言ったように、僕は急いでるんだ」

「じゃあ尚更だ。さっさと俺に倒されてさっさと寝てくれよ。殺しゃしねーさ、たぶんね」


 そう語る銀髪の少女は猛禽類のような獰猛な笑みを浮かべている。


「会話するつもりないだろお前」


 少なくとも仁吉はそう感じた。

 話がどう転んでもこの少女は仁吉を倒さなければ気が済まないらしい。


「んなことないよ。まあせめて、一方的にボコるのも悪いから名乗りくらいはしてやるさ。俺の名はね――焱月(えんげつ)龍煇丸(りゅうきまる)ってんだ」

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