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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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fire of vengeance_3

「しっかりと捕まっておれよ!!」


 蒼天は手綱を勢いよく引いてほとんど直角に進路を変える。車輪が擦れて地面を削り、慣性で三人の体は投げ出されそうになった。

 泰伯は剣をチャリオットに突き刺して左手で握ると、右手で桧楯を掴み左膝で蒼天を抱え込んだ。


「ごめんね三国さん!!」

「いや、むしろナイスじゃヤスタケどの!!」


 勢いが削がれたその間に悌誉はまた走り出しチャリオットと距離を取る。


「しかしあの鞭は厄介だね」

「なんなんスかねあの人の前世? これだけ戦いなれてるってことは有名な武将とか豪傑とか、それともどこかの術師とかなんスか?」

「うーん、鞭の逸話がある有名どころというと……呼延灼(こえんしゃく)とか?」

「せめて実在する人間を挙げてもらえんかの!?」


 泰伯の言葉に突っ込みをいれながらも蒼天は悌誉を追う。しかし、近づいたかと思えば悌誉は足を止めて鞭を放ってくる。その繰り返しだった。


「馬鎧とか無いんスかこの馬車?」

「戦車と呼べヒタチ!! そして生憎と無い!! あってもたぶん、それごと貫かれて終わりであろう」


 蒼天の言葉を聞いて泰伯は意を決して言った。


「そうか。なら、僕は一度降りるよ」

「すまんの、頼む!!」

「わ、私は?」

「三国さんのことをよろしく!! 戦車がなくなったらたぶん僕らの負けだからね」

「り、了解ッス!! 命に変えても守るッス!!」


 その返事を満足そうな顔で聞くと泰伯はチャリオットから飛び降りた。その際に、蒼天に犾治郎からもらった通信札を張り付ける。蒼天は特に質問もなくそれを受け入れた。

 そして着地すると泰伯は悌誉のほうを見る。

 機動力ではチャリオットにも悌誉にも及ばないが、それでも双方の動きを追いながら少しでも悌誉に近づける位置に居続けることを心掛けて走り回った。


「……攻撃、やんだッスね?」


 桧楯が言う。

 悌誉はチャリオットと距離を取り続けているのは変わらずだが、その合間の馬を狙う攻撃を一切仕掛けて来なくなった。

 そのため、少しずつではあるがチャリオットと悌誉の距離は確実に縮まっている。


「おそらくじゃが、出来んのであろう。先ほどから悌誉姉はこちらに攻撃するときは必ず足を止めておった。おそらくあの術には、移動中は攻撃出来ないというような制約があるのであろう」

「ま、あり得る話ッスね。大抵の術は何かに特化すればするほど他に無理を強いるもんスから。コスパ最強、攻防一体、オールマイティ、一撃必殺……みたいな術なんてまずないッスよ」


 そう、その特性を泰伯も見抜いていた。だからこそ泰伯はチャリオットを降りると決めたのだ。

 悌誉の的が二つになると、足を止めて攻撃する瞬間が隙になる。左右の鞭で双方を攻撃することも可能ではあろうが、捌き易くなる。それでどちらかに接敵されるのを嫌って悌誉は安易に攻撃出来なくなったのだ。


「とはいえこれ、茨木さんの負担がけっこうデカいッスよね?」

「うむ。換装で強化されてるとは言えど常に走り続けなければいけぬからの。消耗は激しくなる。そして悌誉姉はおそらくそれを待っておるのであろう」

「それまでに追いつければいいんスけど、なんか今のところ決め手に掛けてる感じッスよね」


 そう話していてふと蒼天は思った。

 そもそも桧楯は何者なのだろうかと。

 おどおどとしてはいるが妙に荒事に慣れている。この状況に動じてもいないし、何よりも、先ほどから『術式』という言葉を普通に使っている。術式というものを語る時の様は、それに昔から親しんできたような言い方だった。

 蒼天から言わせると泰伯はどこかまだ――(うぶ)い。胆力と戦闘力については認めているが、自分と同じ、つい最近手にした付け焼き刃の力を思考と精神力で埋めているように感じるのだ。

 そしてこれは直感的な話だが、蒼天と泰伯は本質が同じだと蒼天は思っている。

 つまり、


(ヤスタケどのは鬼名(・・)を持つ者じゃ。しかし――ヒタチは違う)


 と。

 だから蒼天は桧楯に率直に聞いた。


「のうヒタチ。おぬし――その楯は、宝珠(・・)を変形させたものか?」

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