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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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fire of vengeance

 ごろごろという、壁が崩れ去るような音で“彼女”は意識を取り戻す。それは泰伯が地下駐輪場の結界を斬り破った音だ。

 外から入って来た蒼天は、その内部の変わりようなど意にも介さず、その空間の中央にいる人物に声をかける。


「悪いの、悌誉姉……」

「……蒼天。やっぱり、来てたのか」


 二人は互いにやりきれないような目をして相手を見ている。


「大丈夫かい、三国さん?」


 泰伯が気づかいの声をかける。蒼天は目を伏せながら、


「問題ない。まだ少しだけ、心のどこかに願望があったのじゃろう。しかし迷いはない」


 と小さく言った。


「そ、それより……ここ、本当に駐輪場なんスよね? なんか色々とむちゃくちゃッスよ?」


 桧楯は周囲を見回して言う。

 桧楯の言う通り、そこはおよそ駐輪場と呼べる要素は欠片もなかった。

 第一に広い。優に野球場くらいのサイズはあった。

 そして周囲は荒れ果てた原野となっており、あちこちに点々とある草木はそのすべてが燃えている。


「……真っ当な空間ではなさそうですね」


 異能に疎い泰伯でもそのくらいのことはわかる。


「おそらくこれが、転生キロクとやらを壊すための儀式場ということであろう。しかし――それだけではなさそうじゃの」


 そう言って蒼天は悌誉を見る。その顔は苦しみに満ちていて、その理由は蒼天がこの場にやってきたからというだけではなさそうだった。


「……こっちの事情はわかってるってことか。なら話は早いな。これは、“いつかの私”の心象の具現化だよ」


 悌誉の声は、それを見たくないと言わんばかりに重苦しい。しかし蒼天はそれを嗤うように言った。


「いつかの、のう? 余には今の悌誉姉の心そのものに見えるがの」

「……なんだと?」

「だってそうであろう? 悌誉姉がずっと何かに思い悩んでおったことくらいは余にもわかっておった。その苦痛の種がようやく晴れようというのに今の悌誉姉の顔には明るさの欠片もない。むしろいっそう沈んでおるように見えるぞ」

「知ったような口を!!」


 悌誉の言葉が刺々しくなる。

 しかし蒼天は語るのをやめない。むしろさらに煽り立てるように、悌誉のすべてを見透かしていると言わんばかりの笑みを作った。


「正直なところを言うとの。余らは、まあ悌誉姉を止めるつもりでここに来たのじゃが、悌誉姉の態度次第ではそのまま引き返してもよいかと思っておったのじゃ」

「――何?」


 悌誉が眉をひそめる。

 そして蒼天の後ろでは桧楯も眉をひそめていた。


「ちょ、さっきの言葉は何だったんスかーッ!?」

「まあまあ、三国さんには何か考えがあるんだろう」


 泰伯はそんな桧楯をなだめながら蒼天の言葉の続きを静かに待った。


「悌誉姉がしっかりと腹を括り、この行動の果てに待つ解放された人生に思いを馳せておるのであれば好きにさせてやるのもよいかもしれんと思っておった。が、その顔を見るととてもそんな気にはなれん。はっきりと言おう――痛々しくて、見ておれぬよ」


 蒼天の言葉一つ一つが悌誉の心に杭のように突き刺さっていく。

 そして、


「何、心の痛みなど気にするものではない。この期に及んで迷いがあるならとっとと止めてしまうがよい。別に死ぬわけではなかろうに?」


 その言葉が悌誉の最後の理性を壊した。

 怒り狂い、目の前の相手がこれまで同じ部屋で暮らしてきた、気心の知れた妹のような後輩であるということすら振り切って、激情を迸らせた。


「“()け”――破荊双策(はけいそうさく)!!」


 悌誉の両手に二本の鉄鎖の鞭が現れ、双頭の蛇のように左右から蒼天に迫る。

 それを見て泰伯と桧楯も動いた。

 それぞれ蒼天を守るようにその左右に飛び出て剣と盾で鎖を弾く。


「開戦、ということでいいのかな?」

「……煽るだけ煽っといて守りは人任せとかテキトーすぎやしないッスか?」

「すまんの。二人とも大儀である」


 桧楯の責めるような目を蒼天は軽く笑って流す。

 そして、


「――では、始めるとしようかの」


 と、ようやく真面目な顔をして言った。

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