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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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reincarnation_2

 ようやく起き上がった泰伯は頭を抱えながら、気づいていたならフォローしてくれと言いたげな目で蒼天を見ている。


『うん。正雀犾治郎、二年生や。よろしゅうな――三国蒼天サンに南茨木桧楯サン』

「……なんで私たちの名前知ってるんスか?」

「気にしたら負けじゃヒタチよ。どうもこやつが一番の訳知りのようじゃし、今は搾れるだけ情報を得るのがよかろう」

『そうそう。こうゆうのは流れよくいかんとな』

「……無駄な茶番を挟んだのは君だろ」


 泰伯の恨み言を犾治郎は軽く流した。


「ま、細かいことは気にするでない。玲阿の兄君……。名は、そういえば聞いておらんかったかの?」

「泰伯だよ。茨木泰伯だ」

「ふむ、ではヤスタケどのと。それで、ヤスタケどのはこのギンジロウという男から説明を受けておるのか?」

「ほんの少しだけね。詳しい説明をしてもらおうと思ったら君たちが突撃してきたんだ」

「それはよいタイミングであったの」


 そう言ってから蒼天は泰伯のほうを見た。話を聞く前に言っておかねばならないことがあるからだ。


「ヤスタケどの。仔細は省くが玲阿は無事じゃ」

「――そうかい。わかったよ。ありがとう」

「では本題に戻り、余とヒタチにも今回のことの仔細を教えてもらおうかの」


 蒼天がそれまでのふざけた態度を改めて札越しの犾治郎に聞く。

 ようやく真面目な話が始まりそうだということで泰伯と桧楯も真剣な目をした。


『発端は……せやな、泰伯クンには少し言うたけど、南茨木サンは輪廻転生ってわかる?』

「仏サマがやる人生フルーツバスケットみたいなあれッスよね?」

『だいたいそんな感じやな。それで、人間は基本的に前の人生を覚えとらんけど魂には過去の記憶が刻まれとる。そのうちの、我の強い記憶が暴走しとるのが今回の事件の原因や』

「ああ、確かそんな話だったね」

「なるほどの。それで――黒幕は何故そんなことをしておる?」


 蒼天は声を厳しくした。


「学校を混乱させるのが目的というには手段が迂遠すぎるし、余やヤスタケどの、ヒタチのような戦える者をあぶり出したり潰すためとも思えん。先ほどまで余らは戦っておったが、邪魔だてされることはなかったし見られているような気配も感じなかった」

『ええ考察力しとるな。泰伯クン、ちょっとこのあたり見習おか』

「こっちもこっちで大変だったんだぞ!!」


 そんな泰伯の抗議は相手にせずに犾治郎は蒼天の言葉に答える。


『結論から言うとやな。この事件の黒幕の目的は――輪廻転生ゆうシステムそのものの破壊や』


 犾治郎の説明に泰伯と桧楯は首をかしげた。どうにもピンと来ない内容だったからだ。


「……なくなったら、まずいのかい?」

「そもそも魂がグルグルしてるって言うの自体、正直あんま実感湧かないんスよね……」


 しかし蒼天だけは神妙な顔つきをしていた。


「まあ、基本はそうじゃろうの。とりわけおぬしらのような自覚のない側の者らにとっては」

「……君は自覚があるのかい?」

「もしかして、蒼天さんは前世でお貴族様とかだったんスか? それ覚えてるならこの傍若無人ハリケーンっぷりも納得はいくッスけど」

「ま、そんなところじゃ。じゃがまあ余のようなケースならば別によいのじゃ。しかしの、人間、生きておれば忘れたいことや思い出したくないことくらいあるであろう?」


 その言葉に二人は頷く。


「一度の人生、それもほんの十数年の間でもそうなのじゃ。これから生き続ければさらに増えるぞ。離別、後悔、失態などなど――。そんなものを、生まれ変わるたびに初期設定で背負い続ける人生をどう思う?」


 そう言われて二人は漠然とだが蒼天の言わんとするところを理解した。


『加えて、このシステムには業ゆうもんもあるからな』

「業……ッスか?」

「えっと……前世の行いが今世の運命を左右する、みたいなものだったっけ?」

『まあその認識でええよ。要するにその人生の中で積みすぎて溢れかえった徳とか、償いきれんかった罪が次の人生に引き継がれるてことや。厳密には少しちゃうんやけどだいたいこんな風に思といて』


 あっさりと犾治郎は言うが、本当にシステムとしてそんなものがあるのならばそれは地獄のようだと泰伯と桧楯は思う。

 泰伯たちには当然、前世などというものの自覚などない。しかし自分たちが苦しむことや、逆に上手くいったことなどが全てそれら魂に刻み込まれた業によって決められているというのはとても残酷な話だ。


「つまり今回の事件の黒幕は、その輪廻転生システムを破壊して過去の業から逃れたいというのじゃな。これで動機はわかったが、ギンジロウとやら」

『何かな?』

「おぬしはまだヤスタケどのの質問に答えておらぬぞ。それが壊れたらいけないのか、というやつじゃ」


 それは泰伯としても一番答えて欲しいところだった。

 率直な感想として、こんなものなくなっても良いのではないかと泰伯は思い始めている。過程でこれだけの被害が出ているので無問題とはいかないが、一概にその行動を悪と断ずることは出来なかった。


『まあ世界的には都合が悪いな。ただしそれは善悪の話やない。ただ、世の中全体の安定のために貧乏くじを引く人間が出てまうのを許容しろゆう話や』

「なら……」

『だから決めるのは――三国サン、君や』


 犾治郎は蒼天を名指した。そして蒼天はその理由をわざわざ聞かない。続く犾治郎の言葉の予想がついているからだ。


『この事件の首謀者の名は――南千里(みなみせんり)悌誉(やすよ)。君のお姉さんや』


 それは蒼天にとって、玲阿や忠江と同じくらいに、ともすればそれ以上に大事な人間の名である。

 しかしそれを聞いた蒼天は、


「……やはりの」


 と小さく呟くのみだった。


『どうせここで君らがなんもせんでも、そのうち誰かが彼女を止める。ただしそうなったら彼女の末路は死しかない。それでも気の済むまで好きにやらせたるか、一緒になって(たたこ)うたるか――その前に君の手で終わらせたるか。選択肢はそれだけや』


 犾治郎は厳しく、そしてはっきりとした口調で蒼天に言った。


「……どうにかならないのかい? その、魂の業とやらを取り除く方法とかは?」

『ないな。これは別に呪いとかちゃうねん。人間が生まれによって身体能力とか頭の出来とか、家族とかに差異があるのと同じ話なんや。本人の努力や回りの人間の支えで埋めれることはあってもなくなることはない。それでも生きていかなあかんのが人生やろ?』


 犾治郎の言葉は正論だ。何一つ間違ってはいない。しかし世の中にはそれを許容出来ない人がいるということもまた泰伯にはわかる。


「ちなみにさ、誰かが倒しに来るって言ったよね? なら、僕らが何をしなくてもじきにこの騒動も収まるんだよね」

『うん。まあ数日後には(なん)もなかったようになっとるやろな』

「――そうか」


 そう言うと泰伯は黙り込み、蒼天を見る。

 決断を待たれている。そうわかった上で蒼天に迷いはなかった。


「余の腹は決まっておる。悌誉(ねえ)は余が止める。だから、ヤスタケどの。ヒタチ――そちらの力を貸してくれ!!」


 真っ直ぐな言葉である。

 泰伯が一番好きな気性だ。


「もちろん。微力ながら全霊を尽くさせてもらおう」


 だから泰伯も真っ直ぐな言葉で返した。

 桧楯は少しおどおどとしているが、


「い、今さら水くさいッスよ蒼天さん。乗りかかった船って言ったじゃないッスか!!」


 と大声で叫んだ。


『方針は決まったみたいやな。なら、話を続けよか』

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