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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue1 “is *** p**n*e*s o* **t?”
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encounter with my tigers

 頭から血が滝のように流れている。口の中も切ったらしく、口内には血の味が広がっていた。

 それ以外に、今の仁吉は自分の状況を理解していない。ものすごい速さで壁に打ち付けられたのだ。体の骨もあちこち折れているだろう。しかしその痛みも、大量出血のせいでよくわからなかった。

 視界も定まらない。意識もはっきりとしない。抱えていたはずの信姫の感触もその手にはない。飛ばされた時に手放してしまったのか、掴んではいても、それすら認識出来ていないだけなのかすらわからなかった。


(……むしろ、よく、こんなでまだ生きてるな僕)


 最後の最後で全力を振り絞り、どうにか一撃だけ躱すことが出来た。そのおかげで即死だけは免れた。

 きっとこの結果が奇跡で、これ以上は望めないのだろう。暗転する視界の中でそんなことを想っていた時、ふと仁吉の目の前に何かが現れた。

 それは茫洋としていて細部はわからないが、うっすらと見える形は、白い、虎のように仁吉には思えた。


(……最期に見るのが、虎の幻覚か。まるで山月記だな。そういえば朝、千里山さんが読んでいたっけ…………?)


 虎は何かを訴えるように仁吉をじっと見ている。しかし仁吉は、それに対して何かを言うことすら出来なかった。

 諦めるつもりはなくとも、体が動かない。

 もう指一本すら動かすことが出来ず、糸の切れた操り人形のように仁吉の体は壁にもたれかかっていた。

 悔いがあるとすれば、信姫のことだ。自分を助けようとしたばかりに巻き込まれて死んでしまうのかと思うと、心が苦しくなる。

 それに――。


(……結局、僕は投げ出してしまうのか。くそ……そう思うと、御影さんへの罪悪感と同時に、アイツの言葉が頭をよぎるのが…………この上なく、最悪だ)


 そして、咆哮が聞こえた。

 それは仁吉の息の根を完全に止める終焉の魔笛となる――はずだった。


「枯れ落ちなさい――“飛花落葉”」


 桜の花弁がひとひら、仁吉の目蓋の上に落ちてきた。かと思えば次の瞬間、それは枯れて黒ずんで、灰のようにぼろぼろと崩れ落ちる。

 そして。

 仁吉を襲うはずの、怪獣の攻撃はいつまで経ってもこない。


(これ、は……?)


 どうなっているのか。そう考えていた仁吉に、彼女は優しく声をかけた。


「大丈夫ですか、南方くん?」


 その声は、御影信姫のものだった。

 信姫の声に導かれるようにして、少しずつ視界が明るさを取り戻していく。その目で仁吉が見たものは、今までらどこにもなかったはずの、何本もの枯木。夜風に舞う枯れた花びら。

 そして、怪獣の掌の振り下ろしを、日本刀で受け止めている御影信姫だった。体格差は歴然で、しかし日本刀を左手一本で持っている信姫は、怪獣からかかる重圧などまるでものともしている風ではない。背中に負っていたはずの傷も跡形もなく消えている。


「御……影…………さん?」

「ごめんなさいね、南方くん」


 何がどうなっているのかわからない。そんな風な顔をした仁吉に信姫は、そう言って優しく微笑む。

 その声は夕方の別れ際に聞いたそれと同じように優しかった。


 **


 prologue1 “is she princess or not?”

優美の仮面を纏いましょう

私を偽るために 貴方を誑かすために

真白い(ころも)を羽織りましょう

私を隠すために 貴方を守るために


そうして差し出す私の手を

取る者など いないとしても

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