introduction
真昼の月が刃に映える
風烈過ぎて車騎を奔らす
覇を征く鳥が焱を纏う
朱染の花を虎が呑む
ありふれた日常が変容する瞬間はいつだって唐突だ。
さながら境界を侵す鬼のように。
普通の高校生のはずだったこの僕――南方仁吉に訪れた魂の因果とはどうやらそういうものであるらしい。
赤い月。桜。怪物。そして――白刃。
僕は否応なく巻き込まれていく。かつて畏れられ、蔑まれ、奪われ、追いやられたという“鬼”たちの戦いの渦中へと。
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筋を通して生きるということは実に難しい。
人は真っ直ぐに歩いてきたつもりでも気がつけば道から逸れているということがよくある。
多くの人はそれを仕方のないことだと言うだろう。それが大人になることなのだと言うのだろう。
だけど僕――茨木泰伯はどうしてもそれを許容出来ない。
たとえそれが、命を掛けた戦いの最中だったとしても。
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きっと誰にでも、魂に刻み込まれた宿痾のようなものがある。
平穏を享受し、日常を楽しむ心。
しかして争いを好み、喜び勇んで戦火に身を投げる心。
これまでは顕在化することのなかった余――三国蒼天の矛盾する二つの本心は、“鬼”たちの擾乱の中で葛藤していた。
その戦いの果てに、いったい余は何を選ぶことになるのか――。
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戦うことが大好きだ。
理由? そんなもんわかんないよ。どうしようもなくそいつに惹かれたんだから、仕方がないだろ?
強いて言うなら、俺の魂ってやつはそういうのを好むように出来てたんだろーさ。
その道の果てはきっとロクなもんじゃなくて、だけど最後の瞬間に満足出来ればそれでいいと思ってる。
ああそうだ。昔、誰かに言われたっけかな? 『お前の中には鬼が棲んでる』って。
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