週末は長年片想いしている幼馴染の誕生日。それまでには何とか恋人同士になって、誕生日は彼氏としてお祝いしたい。でも俺が告白しようとするたび、何故か幼馴染は話題を逸らす。あれ?ひょっとして俺、嫌われてる?
「ほら、乃愛、あなたも挨拶なさい」
「うん! 乃愛です! よろしくね!」
「……!」
俺が乃愛と出会ったのは、6歳の時だった。
両親と共に引っ越しの挨拶に来た乃愛に、俺の目は釘付けになった。
くりっとした大きな目に、太陽が弾けたみたいな笑顔。
そして揺れるポニーテール。
グイと差し出された乃愛の手を、俺はそっと握り返した。
「……俺は岳。よろしく」
「えへへ! 岳かー、いい名前だね! 同い年の友達がいてよかった! 一緒に学校通えるね!」
「そ、そうだね」
握った手を、ブンブン振ってくる乃愛。
今思えばこれが、俺が恋に落ちた瞬間だったのかもしれない――。
――そして10年の月日が流れた。
「でね、昨日観た『馬シャーク』っていう映画が、超傑作だったの! だって上半身が鮫で、下半身が馬の化け物なんだよ!? そんなの最強に決まってるじゃん!」
「何だその小2男子が考えたみたいな設定は」
とある放課後。
俺は今日も乃愛と二人で、家路を歩いていた。
乃愛はB級映画が大好きで、自分が観た映画をこうやってよく俺に話してくる。
その様がまるで気ままに甘えてくる猫のようで、何とも微笑ましい。
「絶対面白いからさ、今度岳も一緒に観ようよ!」
「ああ、いいよ。――ところで乃愛、今週の土曜日は、お前の誕生日だよな?」
「――!」
俺は心の中だけで一つ深呼吸してから、切り出した。
「あ、ああ~、そういえばそうだっけ? アハハ、すっかり忘れてたな」
乃愛はポニーテールの髪をプラプラと揺らしながら、頭を掻く。
まったく、こいつは。
――まあいい。
「――乃愛、お前に大事な話があるんだ」
「……!」
俺は真剣な顔で、乃愛に向き合う。
――俺は子どもの頃からずっと、乃愛のことが好きだった。
しかしなかなか勇気が持てず、告白できないままこの歳まで来てしまった。
――だが、今年の乃愛の16歳の誕生日だけは、どうしても彼氏としてお祝いしたい!
そのためには、今この時、告白するしかない――!
さあ、今こそ一生分の勇気を振り絞る時だ、俺ッ!
「――乃愛、実は俺は、前からお前のことが――」
「ちょっ!? ストップ!!」
「……え?」
の、乃愛?
「あっ、そういえば私、用事あるんだった! 悪いけど先帰るね! またね、岳!」
「えっ!? お、おい、乃愛!?」
乃愛は目にも止まらぬ速さで、ピューッと走り去ってしまったのであった。
……えぇ。
「……ハァ」
そして一夜明けた翌朝。
気を取り直して、隣の乃愛の家のインターホンを押す俺。
昨日はタイミングが悪く告白できなかったが、今日こそは告白してみせる!
「はぁ~い。アラ岳くん? 乃愛ならもう学校行ったわよ?」
「え!?」
玄関の扉を開けて出て来た乃愛のお母さんは、俺の顔を見るなりそう言った。
そ、そんな……。
いつも二人で登校するのが日課になってるのに……。
何故今日に限って……。
「うふふ、頑張ってね、岳くん」
「は? はぁ?」
お母さんは意味深な笑みを浮かべながら、口元を手で隠す。
んん?
どういうことですか?
「……あ」
「――!」
一人で登校した俺は、クラスに入るなり乃愛と目が合ったが、乃愛は露骨に目を逸らした。
……乃愛。
「よし、今日はここまで。みんな気を付けて帰るように」
そして迎えた放課後。
担任の先生の合図と共に、急いで帰り支度をして乃愛の席に目を向けると、そこには既に乃愛の姿はなかった――。
……これは。
どうやら完全に避けられているようだな……。
この後も俺は事あるごとに乃愛と接触を図ったものの、ことごとく避けられてしまい、遂に乃愛の誕生日前日である、金曜日の夜を迎えてしまったのであった。
「……クソ」
ベッドで横になり見慣れた天井を見上げながら、拳を額に当てる。
俺、乃愛に嫌われてたのか……?
これだけ露骨に避けられてるんだから、もうそうとしか思えないよな……。
――いや、何を弱気になってるんだよ、俺ッ!
この10年、ずっと乃愛のことだけを想い続けてきたんだ。
ハッキリフラれたわけでもないのに、諦められるかよ――!
ふと時計を見ると、あと数分で乃愛の誕生日。
なるべくなら直接会って告白したかったが、こうなったら致し方ない。
俺は震える手でスマホを操作し、乃愛に電話を掛けた。
――すると。
『……もしもし?』
「――!」
意外とすぐ、乃愛は電話に出てくれた。
数日ぶりに聞く乃愛の声に、思わず心が跳ねる。
「あ、あのな、乃愛! 大事な話があるんだ! どうか聞いてくれ!」
これが告白する、ラストチャンスだ!
『っ! ま、待って! あと少しだけ!』
「え?」
そう言うなり乃愛は、電話を切ってしまった。
の、乃愛――!?
慌ててもう一度掛け直すも、今度は一向に出てくれない。
そうしている内に、無情にも時計の分針は12を指し、乃愛の誕生日になってしまった。
……嗚呼、間に合わなかったか。
「……ん?」
その時だった。
窓をコンコンと叩く音が聞こえてきた。
ま、まさか……!
「……乃愛」
窓を開けると、そこにはタンクトップにホットパンツ姿の乃愛が立っていた。
俺の部屋も乃愛の部屋も一階にあるので、昔はよくこうやって窓からお互いの部屋を行き来していた記憶が不意に蘇ってきた。
「よっ、久しぶり。入っていい?」
「あ、ああ」
数日ぶりにちゃんと対面した乃愛は、驚くほどあっけらかんとしていた。
この態度を見るに、嫌われていたわけではない、のか……?
でも、じゃあどうして……。
「アハハ、相変わらず岳の部屋は散らかってるねー」
「う、うるせーな。男子高校生の部屋なんてこんなもんなんだよ」
「んふふ、そうかもね。――よいしょっと」
おもむろにベッドに腰掛ける乃愛。
「ん」
「――!」
ポンポンとベッドを叩くので、俺も乃愛の隣に腰を下ろした。
「……ごめんね最近、ずっと避けちゃっててさ」
「……」
……乃愛。
「いや、それは別にいいんだけどさ。……なんで避けてたのか、理由を訊いてもいいか?」
「んー、まあ、岳にはわかんないかー。――どうしてもさ、誕生日まで取っておきたかったんだよ」
「え?」
取っておくって……何を?
「だって好きな人からの告白だよ? 女の子にとっては、世界一嬉しいプレゼントだもん。――せっかくなら、誕生日プレゼントとして受け取りたいじゃない」
「――!」
乃愛はほんのりと頬を桃色に染めながら、二へへと笑った。
……乃愛!
「まったく、それならそうと、言ってくれよ」
「いやいや、それを言ったら意味ないじゃない。女心の勉強が足りないぞ、男子高校生」
「ぐっ……」
乃愛に人差し指で鼻先をツンと突かれる。
それを言われると、何も言えないな。
……まあいい。
「……乃愛」
俺は乃愛の両肩に手を置き、じっと乃愛の宝石みたいに綺麗な瞳を見つめる。
「……うん」
乃愛は少しだけ瞳を潤ませながら、そっと微笑む。
「――乃愛、好きだ。ずっと前から、乃愛のことが好きだった。――どうか俺と、付き合ってくれ」
「――ありがとう、岳。――私もずっと前から、岳のことが好きだったよ」
乃愛は瞳から、一筋の涙を流した。
まるでその涙は、夜空を走る流星のようだった。
――嗚呼、乃愛!
「乃愛! 大好きだ、乃愛ッ!」
「私も、大好きだよ、岳ッ!」
俺と乃愛は、強く強く抱き合った。
乃愛の鼓動が、直接俺に伝わる。
ドクドクと、物凄い速さで高鳴っていた。
きっと俺も同じに違いない。
「――乃愛、お誕生日おめでとう」
「――うん、ありがとう」
手を放して、互いの鼻が付きそうなくらいの距離で見つめ合う俺と乃愛。
「――乃愛」
「――岳」
そしてそっと目を閉じる乃愛。
――俺は乃愛の、ぷるんとした唇に――。
「ちゃんと避妊はするのよー」
「「――!!!」」
ドアの隙間から、俺の母さんがニヤニヤしながら覗いていた。
お約束ゥ!!!
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