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4.3.5.高まるもの

 階段を先に登っていたソアラが、次の階まであと数段となった所でアライソの手を離して跳び上がった。何故かも知らぬままアライソも急いだ。


 第四層。光の靄はない。だから状況がはっきりと見えた。轟音が鳴り響き、床の刻まれる音がした。例の黒い外殻が転がっていた。一枚ではない、無数に転がり跳ね上がっていた。そしてそれに追い込まれるようにして、一隅には神人達が固まるようにして集まっていた。生きている者がいた! そして彼らは今まさに外殻に襲われている。


 階段から跳び出したソアラは着地もせぬ間に両袖から羂索を伸ばした。索は鋭く宙を走り、神人へ飛び掛からんとする二つ三つの外殻を打ち砕いた。目を見開いて外殻を見上げている神人達の頭上に破片が飛び散った。


 ソアラは地に足が接するや、全身の力で一跳し、神人達の元へ跳び込んだ。そして無数の羂索を四方へ伸ばして外殻を壊し、八方へうねらせ弾き飛ばし、 交錯させては軌道を防いだ。


 神人達は突如現れた彼女に驚き、声も出せなかった。ただ彼女の袖から伸びてはうねる縄の動きに目を奪われるばかりであった。


 ようやくアライソも追い着くと、左目から引き抜いた大太刀を縦横に振るって外殻を打ち、斬り、割った。


 どれだけの外殻を壊したか、既に随分と潰したはずだが、それでもそれは未だに無数に暴れていた。まるで無限のようにあった。いくら叩き潰しても切りがない。延々と、次々と襲い来る。


ソア「ええい、まどろっこしい! どこから生じて来ていやがる!」


 落ち着きを取り戻しつつあった一人の神人が声を発した。


神人「これは魔物の皮で御座います。魔物の体からボロボロと剥がれておりました」


ソア「きっと、そうなのであろう。彼奴(きゃつ)をやらねば切りがない」


 アライソは外殻の一枚を峰で打って二つに割りつつ、


アラ「その魔物は今どこに」


 神人はおずおずと腕を伸ばして指を差し、


神人「先程までは、あちらの方に。真っ黒い、丸いものが蠢き這っておりました。それの表面から、この皮が。剥がれ落ちては」


 ソアラはそちらをキッと睨んだ。暴走する外殻に阻まれその向こうは見えはしない。彼女は片腕を振り上げて、その袖から伸びる羂索を束へと纏めた。太く縒った縄を叩き付け、一方向の外殻を一度に叩き潰すつもりであった。


 だがその振りかぶった僅かな隙にも数多の外殻が彼らの元へと襲い来る。一瞬たりとも守りを薄めることは出来なかった。片腕分の羂索を攻撃に回せば、その間隙を縫って神人達は襲われる。ソアラは舌打ちした。縄を振り回して寄る外殻を打ち壊した。


 それでも大元の魔物を倒さなければ、おそらくは、外殻の攻撃はいつまで経っても止むことはない。


 彼女は肚を決めた。


ソア「巴穂(はすい)


 縒り縄を一方向へ撃ち出した。縄は轟音を立てながら、幾重にも重なる外殻を打ち割って進んだ。


 それと同時、羂索の守りが薄くなった隙間から、幾つもの外殻が彼女らの場所へと向かって来た。ソアラの背後で守られていた神人達は、外殻が自分達の元へと落ちて来る様を見た。圧し潰される。轢き潰される。


 が、次の瞬間には周囲が漆黒に閉ざされたのを知る。何かが激しくぶつかる音が反響した。辺りは一面の闇だった。


ソア「卍蓋(まんがい)


 そんな声が響いた。


 数瞬前、ソアラは縒り縄を射出していた。袖から伸ばすだけでなく、片袖分の羂索を放出し切り、袖口からも切り離した。そしてその直後にもう一方の袖の羂索を用いて卍蓋の結界を張った。彼女と神人達はその内に閉じ込められていた。


 固く結ばれた卍蓋に向かって次々と外殻はぶつかって行く。半球状の防御壁は堅牢にして揺れも歪みもしなかった。完全に閉ざされていた。だがこれでは中の守りは完璧だが、外への攻撃も出来なかった。


 卍蓋の外にいるのは暴れ回る外殻と、それに向かって刃を振るうアライソのみ。彼は横目で外殻に襲われつつも微動だにしない半球状の卍蓋を見た。


 視線が向けられたのが分かったわけではないだろうが、その時、中から声が聞こえた。


ソア「アライソ、行け! 魔物を叩け!」


 外にいるのが彼しかいない以上、それは彼がやるしかない。そして今こそ守りは鉄壁だが、無限に続く外殻の攻撃にいつまで耐えられるかは分からない。


アラ「はい!」


 叫んで応え、見渡せば、ソアラの撃ち出した巴穂の跡が、割れた外殻を弾き飛ばして左右に別けつつ、一つの道を作っていた。


 道の先へと視線を送った。道の先端、その脇には、無数に崩れ、また転がっている外殻とは別の黒いものが屹立していた。それは円柱のように縦に伸び、ざらざらとした表面を零し落としながら、ぐねぐねとうねっていた。


 そしてそれはアライソの殺気を察したのだろうか、ゆっくりと曲がると頂上部だった先端を地に着けて、環状になり、向こうの方へと転がって行った。


 あれが本体!


 転がり逃げるそれを追う。


 黒い輪は上階へと続く階段に突き当たった。しかしそれは平地を転がるのと同じ速さで難なく階段を上って行った。


 階段を上へ上へと転がって行く輪を追って、アライソもまた駈け上った。


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