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4.1.2.調子外れの女将軍

アラ「ソアラ、将軍……」


ソア「おう! そうだ! 何を伝えんとして参った。さあ、申してみよ!」


 アライソは困った。どう見ても彼女が将軍どころか兵士であるとも思えなかった。しかし神人は嘘を吐かない。だから、きっと、彼女は完全に自分のことを将軍だと思い込んでいるのだろう。


 そしてそれならば、どこまで話して良いものか。南方へ行った時、ミルメは東方が襲われたことを知らなかった。だから神軍は民間人には世界の危難を出来るだけ伝えないでおく方針を取っているのだろう。


 迷っていると、


ソア「何だ、どうした、早く申せ!」


 急かされて、


アラ「ええ、将軍……。ソアラ将軍」と、相手の妄想に付き合って、「実は、内々のことですから、西軍の城塞にて申し上げたく。そこまでお連れして頂けますでしょうか」


 鎮西軍の元まで案内してもらおうとそう言った。軍と関わりのない神人であっても要塞の場所なら知っているだろう。しかし、


ソア「城? 西軍にそんなものはないわ!」


アラ「そうなのですか。……では、幕営にて」


ソア「我が西軍はこの天下が幕下だ! さ、申せ」


 案内してもらうのにどう言ったらいいものか、頭を悩ませ、


アラ「それでは、将軍。……ここには将軍お一人しかいらっしゃいませんので、他の者にも聞かせたく。兵士達のいる場所までお願い出来ますか」


ソア「他の者だと? ううむ」と、下唇を突き出して顎を撫で、「あいつらが聞くかどうか。我の命令にも従わぬからな」


アラ「相手にされていないのですね」


 ついポロっと言ってしまい、慌てて口を押さえたが既に遅く、


ソア「そ! そんなことはないわ! 我は威風雲を切り、人徳海を満たすソアラ将軍だぞ!」


アラ「ええ、ええ。きっと将軍は、ソアラ将軍は尊敬されておりますでしょう」


 (なだ)めつつ。もしかしたら彼女は自分を「将軍」と思い込んでいるのではなく、実際に存在する「ソアラ将軍」と思い込んでいるのではないか。名前すらも思い込みだったか。しかし本当の名前を聞こうとしたとしても、彼女はあくまでソアラ将軍だと名乗るだろう。


ソア「まあ良いわ! よし、兵達の元へ連れて行ってやろう!」


アラ「ありがとうございます」


 そうして二人は連れ立って行った。空では変わらず鳥の群が奇声を上げていた。


アラ「しかし、先程はホトトギスの群の下からやって来ましたが、ご無事ですか」


ソア「何? ホトトギス? あの紙垂侘緒鎖(しでのたおさ)どもか? 何をあんなもの。彼奴等など(たけ)るばかりの度胸なしじゃ。神人を襲うような胆力などない! まさか貴様、あんなものに怯えていたのか?」


アラ「いえ、そういうわけではないのですが、貴女が群の元におり、様子も少し、変でしたから」


ソア「よい、よい! 人は他人に自分を見るものだからな。我が心配そうに見えたというのは、自分がそんな心境だったのだろう! 分かるぞ、理解してやろう!」


アラ「そういうわけではないのですが……」


ソア「まあ、そう恥じるな! 異世界から参ったと申したな。ならば初めて見るものに(よわ)くなっても仕方がない! だがもう安心しろ! 我がついている!」


アラ「それは、どうも……」


ソア「様子が変とも申したが、変なのは貴様じゃ! やはり人は他人に自分を見るのだのう」


アラ「……そうですね」


ソア「おお、そうじゃ、貴様は異世界の者だったな。この尊き神界へ何をしに来た」


 急に話が変わって驚いた。だがその質問には答えられなかった。


ソア「物見遊山か? それもいい! この世界には見るものもたくさんあるからのう! どうだ、楽しいか!」


アラ「ええ、まあ。それは楽しいです」


ソア「ええい! うるさい!」


 と、叫んだ。空を見上げてホトトギスに怒鳴っていた。それからアライソに向き直り、ほくほくした顔で、


ソア「そうだろう! そうだろう! ここはあらゆる世界で最も優れたる場所じゃ!」


 アライソとしてもそう思っているが、そこの住人にそんな風に自慢されると何となく、素直に(うなず)きにくくなった。


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