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3.1.5.南海の砦

 城塞には朱色の柱が立ち並び、黄金白銀の金物で装飾されていた。足下には大理石と黒曜石の石畳が敷かれて続き、辿り着いた白洲の玉は磨き抜かれた白瑪瑙だった。


 その上に船人達は荷を置き、積み上げ、検分の兵士と和やかに話し合っていた。


兵士「いつも、ありがとうございます」


船人「なになに。このくらいお安い御用ですよ。兵士さん達の励みになればこちらも嬉しい。そうだ、この度はいい昆布が入りましたから、煮詰めるといい味が出ると思います。ぜひ楽しみにしてください」


兵士「おお、それはいいですね。聞いただけで頬が綻びます」


 アライソはそうした彼らの親し気な交流を眺めていた。そしてふと、船人の一人が彼の方を振り向いて、兵士に言った。


船人「そうだ、今回の楽しみは荷物だけではありません。なんとお客様がいるのです。あちらの、アライソさんと言うそうです、あの方がこの鎮南軍に御用があるそうで」


兵士「ほう。あちらの方が我々に御用と」


船人「ええ。何でも娑婆という世界からいらっしゃったそうで」


兵士「別世界からわざわざ。ありがたいことですね」


 兵士は片手を挙げてアライソを招いた。アライソはどぎまぎしながら近寄った。兵士の様子には敵意も警戒心もなく、彼を客人として歓迎していた。


兵士「聞けば我々に御用があるのだとか。どういった御用向きで?」


アラ「それが」と、躊躇(ためら)い、船人達の方をちらと見て、「内々に伝えたいことで、彼らの耳には入れたくはなく」


 兵士は相手の瞳に深刻な色が浮かんだのを見て、瞬時に気が引き締まり、


兵士「なるほど。ただ事ではないようですね。お聞きしましょう。こちらまでお越し下さい」


 と、主殿に昇り、奥まで案内した。


 通された部屋はやはり煌びやかで、四方は黄金、柱は香木、天井には羽衣を纏った迦陵頻伽が描かれて、欄間には神獣が彫られていた。


 その部屋で待つこと暫し、数人の兵士がやって来た。アライソの向かいに座り、その内で最も格が高く見える一人が言った。


奉行「アライソ殿。貴公が。我々にお伝えしたいこととは、果たして」


 空気が張り詰めた。それはこの兵士が先程までの者達とは違うからという理由ではない、身を入れるべき時と場を得たからだった。


 アライソは気を引き締めて、東方での出来事を語った。


 龍なる侵略者が現れたと聞いたこと。それによって鎮東軍が破られたこと。彼らが再起を果たそうとして苦しんだこと、但し村を襲ったことについては黙っていた。人間である自分と出会い、人間の力と共に侵略者を討伐しようとしたこと。しかし国境に戻ってみれば破壊はされていたものの、龍はいなくなっていたこと。


 ここまでを休みなく語った。


奉行「なるほど。そしてシノノメ殿が、将から降りた、と」


アラ「どうしてそれを。ご存知でしたか」


奉行「ええ。東方よりの使者がありましたので。そしてその報告と、貴公のお話では違うところは一分(いちぶ)となく。やはり貴公は書状にあったアライソ殿に間違いはない様子」


アラ「私のことも……」


奉行「ええ。別世界のためにすら心身を捧げられる篤信の勇者であると」


アラ「いえ、そんな。私はそんな者では」


 赤面した。


奉行「謙虚であるところも記されていた通りですね」


 と、ふふっと笑い、それから真顔に戻って、


奉行「より詳しくお話を聞きたく存じます。謁見の間までお越し下さいますか」


 彼は脇の兵士に何かを伝え、その兵士は部屋を出て行った。それから暫くの沈黙の後、兵士が戻って来ると、


奉行「では、こちらまで」


 と、更に奥まで通された。辿り着いた先で兵士は丁寧に襖を開けた。


 そこに広がっていた大広間は、屋内とは思えない程に大きく、数百人の兵士が居並んでもまだまだ余裕がありそうだった。左右の壁沿いには兵士達が列を成して並んでいた。皆一様に深沈とし、隙のない目線を真っ直ぐに投げていた。


 広間の奥には一段高くなって上段之間が設けられ、そこに具足を身に付け、陣羽織を羽織った偉丈夫が床几(しょうぎ)に掛けていた。


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