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ダンスバトルで勝負を付ける世界で魔王と勇者が戦う話

作者: 黒犬狼藉

 王国暦2XX年、剣と魔法のファンタジー世界であったこの世界は文化的侵略を受けていた。

 相手は魔王、魔物から生じ知性ある魔物、すなわち魔族をまとめ上げる人類の敵。


 かの魔王は、人類の叡智の結晶である文化を人間という人的リソースごと奪っていた。

 最初こそ泥沼の戦争が発展し、その文化的侵略に対抗していた人類だったが魔王が放った一つの魔術により一気に劣勢に立たされることとなる。

 その魔術は人類対人類、人類対魔族、魔族対魔族の戦争をダンスバトルで戦うというモノ。

 あまりに巫山戯た内容に最初、人類側は一笑し見下していたがその笑みは一瞬で覆される事となった。

 戦の常道が通用しない、そして魔族と違い一枚岩ではない人類はそのことで後手後手に回ってしまい戦争開始から3年、その魔術が展開されて1年で人類の生存圏は半数以下にまでへらされてしまったのだ。


 だが、その光明が見えない戦いの中1人の男が声を上げる。

 後に『舞勇者』と呼ばれた男が、声高らかに叫びを上げたのだ。


『魔王!! 俺はお前に勝負を挑む!! お前を、人類を追い詰めたお前を!! 俺の両親や友達っを奪ったお前の全ての尊厳を、権威を、お前が奪った文化を人類の手中に入れてやる!!』

『その勝負、受託しよう。だが良いのか? 今のお前では私には勝てないぞ?』


 その発言に男は言葉を詰まらせ、だがソレでも恨みを持った目で魔王を睨み続けた。

 魔王はそんな男を気に入ったのか、言葉を続ける。


『4ヶ月、4ヶ月だ。それだけの猶予を与えよう、それまでの間に私に勝つ方法を。そして私に勝てるだけの技術を手に入れるといい。』


 その言葉と高笑いと共に魔王は転移魔術で消えた、男は街の領主がダンスバトルで敗北し魔族の略奪され人類の手で火を放った街の中でその覚悟を決めたのだった。


 ソレから4ヶ月後、男は……。

 勇者は、元々は人間が住んでおり今は魔王が住んでいる城の中の大広間。

 ダンスホールで魔王と相対していた。


「4ヶ月ぶりだな、魔王!!」

「随分と物々しい装備じゃないか、勇者よ。」


 彼女は女性らしい髪を手で弄りながら、勇者片手間で対応する。

 黒いドレスは麗しく、ダンスをするために足には大きく切り込みが入っていた。

 女性、いや踊り子としてみればその姿はこれ以上ないモノだろう。


「お前を倒すために必死になって学んだんだよ、お前の全てを奪うために。御宅はいい、早く勝負を始めるぞ。」


 そう言った瞬間、魔術が発動する。

 勇者の言葉に魔王が作り上げた魔術が反応したのだ。

 勝負をするにあたり互いに宣誓を行う。

 魔王の宣誓は勇者を倒せばその全てを奪う、勇者の宣誓は魔王を倒した時その全てを奪う。

 互いにシンプルな宣誓を行い、2人は踊りを踊り始めた。


 最初のステップは勇者だった、力強く踏み込み回転を体に掛けながら繊細なステップを踏む。

 対する魔王は、回転しながら女性的なドレスのスカートをはためかせその魅惑の生足を見せつける。

 前哨戦、戦いは最初は互角だった。

 勇者の王道的なステップは、魔王が魅せる蠱惑的なリズムとぶつかり合い、一種の神聖さと共にその超絶技巧を奮わせる。

 ギャラリーは、いない。

 だが、もしギャラリーがいればその動きは他の人間を魅力したであろう。


カッカカカッカカカ、 タンタタタッタタッタタタタン。


 石英で作られたダンスホールに2人の足音のみが響き渡る。

 その音は混ざり合いながらも離別し、融合しながらも消しあう。

 交わるようで交わらない、混ざるようで混ざらない。

 水と油、犬と猫、正義と巨悪といったような様子を表現しているかのようだ。


「うまいじゃなか、勇者。少しペースを上げてやろう。」


 だからこそ、状況を打開するため魔王は速度を上げると煽り実践した。

 速度を上げた魔王の動きは蠱惑的なものに変わりはないものの情欲を煽る動作を多分に含め、男である勇者の集中を掻き乱そうと画策する。

 だが、ソレがどうしたと言わんばかりに魔王に視線を向けながらもペースを微塵も崩さず踊り続ける勇者。

 その姿を目にした魔王はより一層、意固地になり速度と技量を上げた。


 空気が、空間が、存在が、全てが魔王を喝采する。

 そのダンスは二言がいらぬほどに完成されていた。

 世界の中心が自分であるというように、そう主張するように魔王はダンスをより早くする。


 だが、そのダンスは勇者の動きによって全てを否定された。


 勇者のダンスはどこまで行っても愚直だった。

 真っ直ぐで正直で、そして愚かしいダンスだった。

 もし、魔王意外と勝負をすればそのダンスは無意味だっただろう。

 基本しかない、基本を完成させただけの奇想天外さを孕まないその動きは完成ではなく発展途上のダンスだ。

 だが、この場において勇者のダンスは魔王の踊りを上回っていた。


 未完成、完成されないダンス。

 ソレは卓越した技巧によって繰りなされる魔王のダンスを踏み台とし、愚直な美しさを広げていた。

 あまりにも汚れない水の中を泳ぐ泥魚のように、雄大な自然に立ち向かう1人の人間のように。

 褒められたものではないが、だからこそ映える美しさを彼はダンスで表現した。

 その美しさは徐々に魔王のダンスを飲み込み、魔王の目を釘付けにした。

 未だ競っている、だが競っているはずなのに魔王のダンスは勇者を映させる一因にしかなっていない。


 ここに勝負は確定した。


 ゆっくりと、勇者は未だに踊っているはずなのに動きを止める。

 勝負を魔王は放棄したのだ、自分に勝ち目がないと悟って。


「私の敗北だ、なぁ勇者よ。」


 堂々と、戦う前と微塵も変わりなく魔王は言葉を紡ぎながら胸元に刻まれる術式を見る。

 その行動は未だ舞っていた勇者の目にも留まり、彼も踊りを止める。

 その動作は、その動きは、人類対魔族の決戦がここで終了したことを告げていた。

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