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第5ワン 勇者と飼い主

「じ、ジロー、お前……?」


 驚愕の表情で名を呼ぶ飼い主を見ながら、ジローは首を傾げる。その口吻マズルには、光り輝く聖剣の柄を咥えたまま。


「勇者様!」


「勇者ジロー様!!我が国を、そしてアラパイムをお救いください!!!」


 女王とハッセはジローの前に跪く。


「ちょっと待ってよ、どういう事なのさ!?」


 若干の怒気を孕んだしのぶの声に振り向く女王とハッセ。


「 何ですの?シノブさん」


「我々は今、大事な話をしとるんだぞ、シノブくん!」


「露骨に敬称がランクダウンしてる!?……というか、勇者ってボクの事じゃなかったの!?」


 しのぶは確かに勇者のみが扱える聖剣を持ち上げる事が出来た。しかし、鞘から剣を引き抜くことは出来ず、それは愛犬ジローがやってのけたのである。


「これは私の推測の域を出ないのですが……」


 と、女王は前置きし、語る。


「アラパイムの外から召喚される勇者は、聖剣を造った【神】より勇者として特殊な力を与えられると聞きます。そして、先代の勇者が召喚された際は人間の若者が一人だけでした……」


 前回の召喚でアラパイムの地に現れた勇者は人間が一人。それが、しのぶとのただ一つの大きな違いだった。


「本来、シノブ様が一人で授かるはずだった勇者の力は……シノブ様とジロー様のお二方に分かれて宿ったのではないでしょうか?」


 算数のあまり得意ではないしのぶでも、簡単な割り算くらいは出来る。勇者の力とやらが10として、 しのぶとジローに割かれた割合が如何ほどかは定かではない。5:5の可能性もあれば、1:9かもしれない。


「……それって、 そっちのミスだよね?」


 しのぶの言葉に女王もハッセも顔を背ける。


「だって、勇者の召喚なんて2度目ですし、そもそも一度目も100年以上も前ですもの……」


「だってもクソも無いよ!ただの小学生と雑種犬に中途半端な力が付いたくらいで世界を一つ救おうってのがもう無茶苦茶じゃん!ボクとジローを元の世界に返して勇者ガチャを引き直してよ!!」


 しのぶの訴えに返ってきた言葉は非情なものである……


「一度召喚された勇者は、その地を救うまで元の世界には戻れな いのです……」


「何だそのクソ仕様!!?」


 勇者の召喚にリセマラは不可能だった。手と膝を床に突き、うなだれるしのぶ。まだ11年しか生きていない身で、こんな訳のわからない世界に飛ばされ、魔王を倒せと言われ、用意されたものは自分で使えない聖剣のみ。


「積んだなこりゃ。何たるクソゲー」


 重ねて言うが、しのぶ達はゲームの世界に入り込んだわけではない。


「クゥーン?」


 傷心の飼い主を案じてか、 ジローがしのぶの元へ駆け寄る。


「慰めてくれるのかいジロー?でも剣は危ないから仕舞っておこうな」


 しのぶは鞘を持ち、ジローの咥えた聖剣の刃を収納させる。刃が鞘に収まったのを確認するとジローは口から柄を離し、しのぶは剣を再び杖を突くかのように構えた。

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