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第17ワン 勇者と油断

『小僧……随分と余裕をかましますね?』


 タモンはしのぶの挑発には乗らず、冷静に問う。


「うん。だって、お前らはボクらを殺す事で不利になるからね」


『なに!?』


「聖剣の本体はジローに、鞘と鞘に入った状態の聖剣はボクにしか動かす事すら出来ないんだよ?」


 それはタモンも身を以て知っている。そのせいで騙し討ちを受け、三つある命のうち一つと影武者を失ったのだから。


「この場でボクとジローが死ねば、聖剣は魔王の所へ持って行けなくなるぞ。邪神の封印とやらを解くためにはコレが必要なんだろう?」


 しのぶの言うとお、 聖剣を扱える勇者が消えてしまえば聖剣はこの場から動かす事が出来ない為、邪神復活という魔族達の目的は達成出来ない。


「それが解ったら諦めてとっとと帰れ」


『只人如きが我々魔族を脅して取引しようとは思い上がりも甚だしい!!ならば殺さぬ程度に痛めつけ、貴様らごと聖剣を持ち替えればよいだけの話だ!!』


 タモンは再び身構える。


『深淵に眠る黒鼈タルタルーガ、永遠の吹雪で黙らせよ!…フリズン!!』


 タモンが呪文を唱えると、全長60センチほどの氷柱が空中に現れ、しのぶとジローのもとへ飛んでゆく。


「ジロー!ボクの後ろに!!」


「わんっ」


 飛んでくる氷柱に対し、しのぶは鞘を盾のように構えて防ぐ、着弾の瞬間に衝撃がしのぶの全身へびりびりと伝わる。が、氷柱はその衝撃とともに砕け散った。


「お一痛てて……でもさすがは聖剣の鞘!頑丈に出来てるな」


 しのぶは多少の痛みこそ感じても、ほぼ無傷であった。そればかりか……


「今のが水の魔術の呪文だな?覚えたぞ!!」


 タモンはある事に気付いてしまった。 ジローが魔術を使う事で強力な攻撃を可能とする事を。


『……だからどうした!その犬は魔力を使い切ったはずだぞ!!』


 タモンは巨大な前肢から生えた斧の如く分厚く鋭い爪を振り下ろす。


「……深淵に眠る黒鼈、永遠の吹雪で黙らせよ!フリズン!!」


 しのぶは両手を鞘に当てながら詠唱し、振り下ろされた爪を鞘で受け止める。すると、次の瞬間に鞘から広がるように氷の膜が現れた。


『なっ……』


 ドーム状に張られた氷の壁に爪は防がれた。


「やっぱりな。魔術ってのは攻撃ばかりじゃない、防御にも転用出来るみたいだ!やっちまえ、ジロー!!」


 ジローは跳躍し、しのぶの構えた鞘を踏み台にして更に跳ぶ。そして聖剣の刃を羽に見立てて竹トンボのように回転しタモンの心臓を狙う。


『させん!……ぐおうああああああ!!!!』


 タモンは身をよじり、獅子の首で胸部を庇った。そしてジローの攻撃により獅子の首は肉を抉られ、切断される。あまりの痛みに言葉にならない絶叫を上げるタモンから、ジローは距離を取る。




「凄いわ!シノブ様が守り、ジロー様が攻める!完璧な連携じゃない!!」


  と、女王。


「そうか、みなジロー殿と聖剣本体の力に気を取られがちだが、シノブ殿は鞘の防御力と賢さでジロー殿を援護する役目を持っていたのか!」


 そう言うハッセもまた、しのぶをジローのオマケ程度の存在としか見ていなかったのも事実。


「シノブ様とジロー様は·····やはり《《二人で一つの勇者》》でしたのね!」


 と、ナイーダ。その時一瞬、タモンの蛇の首と目が合った……ような気がした。


「まだ、続けるかい?」


 しのぶはタモンに問う。


『当たり前だ!!』


 再び爪の一撃がしのぶを襲うが、ダメージの蓄積からかタモンの攻撃は遅く感じられた。


「術で防ぐまでもないな。ジロー、避けるよ!」


「ワン!」


 しのぶとジローは横っ飛びで攻撃を避けた。その時に見えた山羊の頭が邪悪な笑みを浮かべていたのに、気付いた時には既に遅かった。刹那、蛇の首が伸びる。そして、それはしのぶとジローではなく、女王の方へと向かっていた。


「しまった!爪はフェイントだった!!」


 蛇の頭部が女王へと迫る。


「女王様、危ない!!」


 女王の体を押して身代わりとなったナイーダに蛇の首が巻き付く。


「ナイーダ!」


「ナイーダさん!!」


「ワンッ」


 蛇はナイーダの体を拘束したまま元の長さに戻る。


『女王ではなく家臣の方ですか……まあいいでしょう。 勇者たちよ!このエルフの命がどうなるかは貴様らの行動で決まるのですよ!!』


「人質だなんて、小悪党のお約束じゃないか……!」


 しかし、しのぶはその「お約束」を敵が使ってくる事に気付けなかった事を悔やんだ。

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