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赤ずきんとオオカミ卿〜おとぎ異世界世直し草紙〜  作者: 凪司工房
第二章 硝子の靴
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 何とか食事を終えたオルフはバルバラたちからこのボーデベルフ家について、少し情報を仕入れていた。

 シンデレラの父であるクルツ・ボーデベルフは貿易商をしているらしい。家業として親から受け継いだ訳ではなく(祖父は土地を持っている農家だったと後でシンデレラから聞いた)、一代で各国との貿易網を開拓し、財を成したそうだ。今も月の大半を仕事で国外で過ごしており、滅多に家に戻ってくることはないということだった。

 一方、バルバラたちの元夫はというと、これがまあ詐欺(さぎ)師のようなことをして稼いでいた男だったらしい。詳細を彼女たちは語りたがらなかったが、その様子からまともに商売をしていたようには思えない。水を詰めたボトルを酒だと言って売りつけたり、積荷に石を大量に混ぜて目方を誤魔化したり、安く手に入れた衣類を高級品と言って買い取らせたりというのは、昔からよくある手法だ。オルフもかつてはそういう人種と一緒に仕事をしていたこともある。彼らは口癖のようにこう言ったものだった。


『金は汗水垂らして手に入れるもんじゃなく、頭を使ってうまく相手に持って来させるもんだ』


 そんな彼らの多くが殺されたり、捕まって懲役労働させられたりした姿を多く目にしてきたオルフからすれば、どんなに上手く相手を(だま)したところでいつかはそのしっぺ返しが来るのだというのが、この世界の理というものなのだと思えた。


「しかし、ここの旦那は家に仕事の分かる人間は誰も置いてないのだな」


 オルフはデボラに案内してもらい、書斎に入り、そこに並べられたクルツの資料を手に取った。どれも丁寧に書き込みがされた帳簿や人物に関するメモで、文字を見ただけでシンデレラの父親が几帳面で優しい人物だと分かる。


 ただ、その父親がシンデレラが現在置かれている状況に気づいていないということも、考えづらい。昨夜その件についても彼女に尋ねたが、父親が家に戻っている時には継母たちは普段とは違って自分に対し、優しく振る舞っているというのだ。けれどその程度で誤魔化せるほど、現在のこの屋敷内の状況というのは甘くはない。帰ってきた時だけ臨時で使用人を雇い入れるというのは不可能という訳ではないだろうが、シンデレラによれば父親が帰宅するのは不定期で突然のことが多いらしい。わざわざそれに合わせて来てくれる使用人と事前に契約をしておくことも可能だろうが、果たしてそこまでするものだろうか。

 だからこそ、仕事に対しては真面目で几帳面で人の良さそうな面がある一方で、娘を始めとする家族のことについてはほとんど無関心な男なのではないだろうか、というのがオルフの推測だった。


 仕事の外面が良いだけの男は意外と多い。しかしそういった人間ほど家族を酷い目に遭わせ、離婚や離別を経験している。けれどいざそうなった時、彼らには一体何が悪かったのかというのが分からない。

 オルフは結婚というものを政略に使う以外で考えたことがないのも、自分にとっては無駄なものだと思っているからだ。

 それでも時折、家族、家庭への憧れというのもが脳裏を過ぎる瞬間がある。それらが強烈に欲しいという訳ではなく、ただ隣の芝生を青く感じただけだろうが、そうした時に去来する胸の奥のもやもやしたものをどうにかする為、肉を喰らうか、酒を浴びるか、さもなければ奴隷や部下を(しいた)げた。


「オルフ様?」


 デボラに呼びかけられる。どうやら記録帳を開いたまま、考え事をしてしまっていたらしい。


「父親の仕事に関するものは、これで全部か?」

「おそらくは」

「金銭の管理についてはどうなっている?」

「それはお母様に全て任されている、と」


 予想はしていたが、その通りだったようだ。

 何故バルバラはクルツと、いや、このボーデベルフ家に嫁いできたのか。恋愛感情があった訳でもなく、誰かの紹介で結婚をした、とシンデレラからは聞かされている。前妻が幼い頃に病に倒れ、それから父一人娘一人でやってきたところ、仕事が忙しくなり、新しい妻を迎えることを考えたのだろう。他方、バルバラたちは離婚し、その後、経済的に恵まれていた訳ではないようなので、その問題を解決する最も簡単な方法として、結婚を選んだはずだ。

 そこまでは理解できる。だが何故使用人を全てクビにしたのか。豊かな暮らしをしたい、不自由なくお金を使いたいというのであれば、最低限の使用人は必要だ。それとも何もかもシンデレラと、娘たちにやらせればいいとでも考えているのか。

 いまいちバルバラの考えが読めなかった。


「そういえばお前たちの母、バルバラはどこに出かけたのだ?」

「知りません」

「では何の用事で出かけたのだ」

「それも、存じません」

「バルバラはお前たちに何も知らせずによく出かけるのか?」

「以前からそうでしたし、私たちもいちいち聞きませんから」

「ああ、そうだな」


 母にそこまで関心がないのだ。与えられたもので満足し、その枠から出ようとしない。

 それはバルバラの教育の賜物(たまもの)だろう。

 オルフはデボラを見て、笑みを浮かべた。


「あの」

(わし)の頼みを一つ、聞いてくれないか?」



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