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赤ずきんとオオカミ卿〜おとぎ異世界世直し草紙〜  作者: 凪司工房
第二章 硝子の靴
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2

 チェルたちが女神から聞かされたシンデレラの物語とは、こういうものだった。


 あるところに妻を失った男と一人娘が暮らしていました。男は娘の為に新しい妻と結婚しましたが、彼女には二人の娘がいて、その義姉(あね)たちは彼女に意地悪をしては彼女を酷く悲しませました。暖炉の灰の掃除を命じ、彼女が灰だらけになっている姿を見ると「そうよ、お前は灰かぶり(シンデレラ)ね」と笑ったのです。

 ある時、城で舞踏会が開かれることになったのですが、シンデレラには着ていく服がありませんでした。綺麗なドレスを着てお城に出かけていく継母(ままはは)と義姉たちを羨ましく見送った彼女の前に、杖を手にした一人の老婆が現れて、こう言うのです。


「舞踏会に行きたいのだろう?」


 老婆は魔法使いでした。シンデレラがとても良い娘なので、お城に行かせてやろうというのです。けれど服もないし、無理だと彼女が言うと、老婆は南瓜(かぼちゃ)を持って来いと言いました。シンデレラが持ってきた南瓜は老婆の魔法によって馬車になり、捕まえてきた(ねずみ)は御者に、トカゲはお供の者に姿を変えました。更に老婆が杖でシンデレラに触れると、たちまちにボロは綺麗なドレスに変わったのです。それから老婆はガラスの靴をシンデレラに()かせ、こう言い聞かせました。


「十二時を過ぎたら魔法は解けてしまうから、必ず十二時より前に城から戻らないといけないよ」


 シンデレラは約束を守り、お城の舞踏会に行き、王子様と何度も踊り、約束の時間までに家へと戻りました。舞踏会から帰ってきた義姉たちは城に現れた美女がシンデレラとも知らずに、その話を自慢しました。

 翌日もシンデレラは魔法使いに出会い、ドレスとガラスの靴に着替えて、お城に行きました。その日は昨日よりもずっと楽しく、いつの間にか十二時の鐘が鳴り始め、シンデレラは慌てて城を抜け出します。その際に片方の靴が脱げてしましましたが、魔法が解けてしまうので、ガラスの靴を残したまま、シンデレラは慌てて家へと戻りました。

 残されたガラスの靴を拾い上げた王子は、シンデレラを探す為に、街に出て、年頃の女性にガラスの靴を履かせていきました。

 やがてシンデレラの家へと、王子たちが訪れます。義姉や継母もガラスの靴を履くことに挑戦しましたが、大きすぎたり、小さすぎたりで当然のように合いません。そこでシンデレラは「私に合わないかしら?」と、それが自分のものだと知った上で申し出ました。見事、シンデレラの足はガラスの靴にぴたり合い、こうして彼女は王子と結婚し、幸せに暮らしました。


 それを聞いている途中から、チェルは胸の上あたりがもやもやとして気持ち悪かった。何故ならシンデレラは美しい容姿と心を持っているという話なのに、女神が語ったその娘の、何といけ好かないことか。自分が義姉や継母に比べて綺麗なことを理解した立ち振舞いと心の余裕、おそらく両親に甘やかされて育てられたのであろう、自分で何かをするのではなく、魔法使いの力に頼り、王子の愛情に頼り、全てが周囲の力で上手くいっている。彼女がしたことといえば、わざとガラスの靴を残してくることだけだ。

 チェルの村にも美人だったり、可愛いと周囲からちやほやされたりしている娘たちはいた。チェル自身も「赤ずきん」と可愛がられてはいたが、それは綺麗な女性に対しての扱いではなく、あくまで小さな子どものように物を与えたり、(しか)らなかったり、笑顔を向けたりされただけだった。

 美人であるということは当然周囲の同性から(いわ)れのない嫉妬や憎悪を向けられる。それは美人税とでも呼ぶべきもので、避けようのないものだ。彼女たちはそれに対し、心の余裕をもって優しく振る舞うか、周囲の同情や愛情を惹くようにして庇護欲(ひごよく)に頼るかし、その状況を切り抜けている。

 だがシンデレラはそのどちらもしていない。義姉たちに対して、ただ自分が可哀想でこんなにも辛いと(なげ)いていただけだ。

 チェルは絶対にそんな女にはならないと、心に決めていた。


「本当にこちらで良いのだな?」

「うるさいわね。別に違うと思ったら付いてこなくていいのよ、オルフ?」


 オオカミでは紛らわしいし、卿と呼ぶにも彼はどこの侯爵でも伯爵でもない。それで名前を尋ねたところ「オルフ」という、かつて使っていた名があることを教えてくれた。

 彼がそう呼ばれていた時代に何があったのか、チェルは知るつもりはないが、その名を声に出した時に目を細め、何やら遠くを見て物思いに(ふけ)っていたから、呼ばれて嬉しい名前という訳ではないのだろう。


「違うとは思わない。だが儂のこの鼻が、妙なものを感じるのだ」


 犬の鼻は人間のそれよりよく利くというのは聞いたことがある。しかしオオカミの、それも中途半端に人間的なオオカミのそれがどれくらい利くのかについては、チェルは半信半疑だった。大体、オルフが嘘をついていないとも限らない。


「夕食を作っているその臭いか何かなんじゃないの。とにかく足跡はこっちに向かっているから」


 チェルはそれでも鼻をひくつかせるオルフには構わず、先を急いだ。

 しばらく行くと森が開け、そこに一件の二階建ての屋敷があるのが見えてきた。



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