二十二話私、初戦
今日も今日とてミルロウと山を探索中。
険しい山道を涼しい顔で進むミルロウの背中を追いかける。
私はふとここで会ってから気になっていたことを聞いた。
「そういえばあんたは何の武器を選んだの?」
こいつが武器を取り出した所を私はまだ見ていない。
道具袋に入るサイズとなるとナイフだろうか?
「ん? 僕は武器など持っていなーー止まれ」
ミルロウが手で制止を促した。
「えーー」
直後、私の目の前に紫色の液体が降り注ぐ。
液体に触れた地面がジュッと音を立て溶解していく。
自身が辿っていたかもしれない末路を想像してゾッとした。
上を見ると人間大の紫色の蜘蛛が木に張り付いていた。
見たことのない魔物…!
「っ!」
ミルロウが木を駆け上がる。
そしてあっという間に蜘蛛の魔物に肉薄した。
「『光纏』」
呪文と共にミルロウの両手が淡い光を纏う。
それを見た魔物がわずかにたじろいだ。
「フッ!」
その隙にミルロウの貫手が蜘蛛の頭を貫く。
魔物はドサっと地に落ちそのまま動かなくなった。
遅れてミルロウも降りてくる。
「メルトスパイダー? こんな所に出るとは妙だな…」
ミルロウが魔物の亡骸を見ながら手を振って魔物の血を払う。
その血が地面を汚す。
「あ…あぁ…」
目の前に広がる死の気配に目眩がする。
腰の抜けた私はその場にへたり込む。
「実戦は初めてか?」
「ええ…」
「そうか…」
ミルロウが私の横に腰を下ろす。
そして普段と変わらぬ調子で口を開いた。
「ミラはどこから来たんだ?」
「え? いきなり…何を…」
「ん? いや気になっただけだが?」
今聞くことじゃないだろうとは思ったが反論する元気もない。
「…コルラド」
「おー! コルラドか! 隣街じゃないか! 存外近くにいたのだな、君は!」
そう言ってミルロウは高笑いした。
「何が面白いの?」
「そんな近くにいたのならここでなくともいつか君に会っていたのではないかと思ってな! 面白い縁だとは思わないか?」
「全く思わない」
つまりどうあっても私はこいつに振り回されるってことでしょ?
たまったもんじゃないわ。
「君は相変わらず辛辣だな! はーはっはっは!!」
本当に何なの? コイツは…。
いつも通りバカなミルロウを見てると何だか力が抜けてくる。
「さてと…」
ミルロウが立ち上がる。
「そろそろ行くか。立てるか?」
ミルロウが手を差し延べる。
「当たり前でしょ」
私はその手を取らずに立ち上がる。
「……それはよかった」
ミルロウは言葉とは裏腹にどこか不安そうな顔をしていた。
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