二十話私、激怒
「君は間違っているな!」
「は?」
こいつは今何て言った?
間違ってる?
こいつは私の全てをーー
「お前に何がわかる!!」
視界が真っ赤に染まる。
視野が狭まり目の前の『敵』以外の全てがぼやけていく。
「間違っているですって? 何でアンタにそんなこと言われなくちゃならないの? これは私の問題よ!! 人の心を土足で踏み荒らすな!!」
ミルロウは怒鳴る私を冷静に、まるでこちらを見透かすように見つめていた。
それがまた私を苛立たせる。
「何よ、その目は?」
「いや、懐かしいものを見たと思ってな」
「馬鹿にしているの? もしかして『実は昔にー』とかおとぎ話みたいなこと言おうとしる?」
ミルロウはゆっくりと首を振った。
「違う。そうではない。しかし、僕が君の心を踏みにじったというのならそのことについては謝罪しよう。気が収まらないというのならどんな罰も受ける。だがーー」
「『君が間違っている』という言葉を取り消すつもりはない」
こいつはーー!
反射的に手が動いた。
ミルロウが静かに目を閉じる。
「っ!」
「叩かないのか?」
私の手はミルロウの頬を叩く寸前で止まっていた。
「アスラル教徒として私情で力を振るう訳にはいかないわ」
強く噛んだ唇から血の嫌な味が広がった。
「私の前から消えて」
「わかった」
ミルロウは頷くと私から離れていった。
私はその背中を見つめ、拳を固く握った。
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私は先程の件を引きずったまま大食堂で朝食を食べていた。
食堂は二十人は座れそうな長いテーブルが6つ並んでおり、周りには同じように修行に来た教徒達が食事を取っている。
その顔は暗い。
無理もない。
出てくる料理はどれもコックの舌を疑うようなものばかりだ。
喉を通るのも一苦労だが食べなければ訓練で地獄を見るのは明らか。
だから皆、苦虫を噛むように必死で口に料理を運んでいる。
そんな街にあったら1週間と持たず店を潰すような料理だが、食堂は大盛況、満席状態だった。
一部、私の周りを除いて。
不機嫌が外に漏れているのか私の周りだけ切り取ったように誰もいない。
だが、不意に隣りの席に1膳分の食事が置かれた。
「先程ぶりだな!」
その声の主は先程実質的な絶交を言い渡したミルロウだった。
「あ、あんた、どの面下げて…」
予想外の出来事に震えた声で尋ねる。
「どの面、とは?」
「さっき『消えて』って言ったのを忘れたの!?」
幾分収まりかけていた怒りが再燃する。
「もちろん覚えているとも。だから言われた通り『あの場から』消えただろう?」
こいつは平気な顔でそんなことをのたまった。
「人を馬鹿にすんのもーーいいわ、それなら言い直す。二度と私の前に現れないで。罰は何でも受けるんでしょう?」
「残念だが1つの罪に対して1つの罰と昔から決まっているんだ」
「あんた…いい加減にーー」
「まあ、そう怒るな。不味い飯がもっと不味くなるぞ?」
その全く悪びれもしない様子に怒りを通り越して呆れてしまう。
「もういい…、あんたに何言っても無駄だわ…」
「そうか。僕は嫌いだが『人生、諦めが肝心という』言葉もある」
「はぁ…」
言い返す気力も失くした私は考えることをやめ、ひたすら料理を口に運び続けた。
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