二話俺、死んだ?(後篇)
「おはようございます」
俺の目に飛び込んできたのはそう言ってこちらを覗き込む神様?の顔だった。
「おはよう…です」
身体を起こしながら返す。
泣くだけ泣いてそのまま寝てしまったのか、見れば俺は布団の上にいた。
星が浮かぶ幻想的な空間との違和感が半端ない。
「落ち着きましたか?」
最初よりはいくらか。
「そうですか。では自己紹介から。私の名前はノエル。貴方達が神と呼ぶ者です」
そう言って神様ーーノエルさんは微笑んだ。
「小宮…慎太郎です」
「ふふっ。はい、存じています」
ノエルさんはおかしそうに笑った。
変なこと言ったか?
いや、俺がどもったから?
あーはいはい、どうせコミュ障ですよー。
「いえ、そうじゃないですよ。人間は私にとって子供のような存在なので名乗られるのが妙におかしくって」
ノエルさんはそう言ってころころと笑った。
そんなこと言われてもこっちは初対面だ。
反応に困る。
「ですね。以後気をつけます、と言っても直せるか自信はありませんが」
ノエルさんはそう言って悪戯っぽくペロッと舌を出した。
きっつ……。
「んなっ!?」
あ、もしかして読まれた?
「言い過ぎじゃないですか!?ヒドいです!?」
「すみません。心から反省してます」
何か半泣きだ。
いきなり子どもっぽくなったな。
というかよく知らん大人にいきなりあんなことされてもキツいだろ…。
「いや、これっぽっちも思ってないですよねっ!? 本音分かっちゃうんですけど!? あと神様の中だと若い方なんですよ! 私!」
「すみません。心から反省してます」
勝手に心を読んでおいて俺にどうしろと言うのか。
「そうですけど!そうですけどっ!!」
そう言いながら目に涙を貯めているノエルさん。
こういうときどうしたらいいんだ?
人と関わらな過ぎて全く分からない。
どうすることもできず立ち尽くしているとやがてノエルさんが「まぁ、いいです…」と言って背筋を正した。
「本題に入ります」
あ、目の端に涙が残ってる。
ノエルさんはくしくしと目元を拭った。
そしてこほんと咳払いを1つ。
「本題に、入ります」
同じセリフなのに何だか圧を感じる。
余計なことは考えないようにしよう。
「貴方は2つの道を選ぶことができます。1つは天界へと行き次の生を待つ道。そして、もう1つは記憶を持ったまま別の世界に行き生前の未練をなくす道です。貴方はやり残したことはありませんか?」
自分が死んだと知って自分が思っていたよりも俺はもっと生きていたかったのだと知った。
生きていたい、なんてことは当たり前のことかもしれない。
けど、それを本当の意味で理解したのはあの瞬間だった。
やり残したこと、やりたいこと今ならいくらでも出てきた。
でも1番は決まっていた。
『父さんと母さんに吐いた友達がいるという嘘を嘘にしないこと』
生前に感じた最後の心の痛み。
いつか父さんと母さんがここに来たとき、後ろめたさなく友達の話をしたいと思った。
「俺、やり直したいです」
「そう言うと思いました。では、こちらに」
ノエルさんが手で指し示した場所に魔法陣のようなものが現れる。
俺はそこに立った。
「貴方に1つだけ手助けをしましょう」
「えっ!?」
もしかして異世界あるあるのチートスキルか!?
俺TUEEEEできちゃうってこと!?
ノエルさんが慈しむように微笑んだ。
「ふふっ、貴方が思っているようなものではありませんよ。悪魔で手助けです」
「じゃあ、何なんですか?」
「それは着いてからのお楽しみです。あ、最後に一つだけ」
そう言ってノエルさんは真剣な表情で俺を見つめる。
「神様が奇跡を起こしたり、願いを叶えたことは今まで一度足りともありません」
鋭い言葉。
だが不思議と突き放されているような気はしなかった。
むしろ声音や雰囲気からは優しさすら感じる。
「それらはいつだって人自身の手によって起こされて来ました。私にできるのはその手助けと祈ることだけです。ですから貴方の第二の人生が心残りのないものになるかどうかは貴方次第です」
「はい」
「良い返事です。貴方の願いが叶うことを心から祈ります。それでは、いってらっしゃい」
その言葉と共に魔法陣が輝きだす。
眩しさに目を閉じる。
やがて周りの空気が変わったのを感じる。
恐る恐る目を開ける。
「は?」
周りを囲む木、木、木。
俺は出口も見えないような広大な森の中に立ち尽くしていた。
「ハードモード過ぎないか…って痛っ!」
いきなり頭の上に何か硬いものが落ちてきた。
頭を押さえつつ下に落ちたそれを見る。
「え?」
それは生前俺の持っていたスマホだった。
まさか…手助けってこれ?
とてもじゃないけど電波繋がらなそうなんですけど?
ってかそもそも異世界に電波飛んでんの?
「こんなんで一体どうしろって言うんだよ…」
『こんなのとは失礼ですね』
唐突に男の声が聞こえた。
俺は慌てて周りを見渡す。
だが人影はない。
『どこを見ているんですか?』
声のする方をよくよく見る。
え、まさかスマホから?
『気づいたようですね。全く…鈍臭いですね』
俺は悪態を突くスマホを前に呆然と立ち尽くした。
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