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十九話私、拒絶

 早朝、聖堂で女神、ノエル様の石像に祈りを捧げる。

 毎朝祈りを捧げるのはアスラル教徒の習慣。

 しかし、どうやら今日は私が1番早かったようで他に祈りを捧げている者はいない。


「ふぁああ…」


 そう『祈りを捧げている者』は。


「貴方ね。その態度はどうなの?」


 私は後ろで気怠そうに柱に寄りかかりながら欠伸をするミルロウに非難の声を上げた。


「どう、とは?」


「貴方も教徒ならきちんとノエル様に祈りなさいよ」


「祈っているとも。これが僕のスタイルなんだ」


 そう言ってもう一度欠伸をするミルロウに私はため息を吐いた。


「それで何でここにいるのよ」


「早朝ならここを抜け出せるかと思ったのだが父上に見つかってな。ダメだった」


「貴方…、まだ諦めてなかったの?」


「当然だとも!」


 ミルロウはどんっと自身の胸を叩いて誇らしげにしている。

 このバカーーいや、ミルロウは修行が始まってから一週間、何度も聖都を抜け出そうとしてはロガード神父に殴り飛ばされていた。

 最初こそ心配していたけど毎日見せられていてはいい加減慣れるというもの。

 今はそれに対して呆れしか浮かばない。 


「それで? いつも通りなのはわかったけど何でここにいるのよ」


「もう一眠りしようと宿舎に向かう途中にミラを見つけてな。何となく着いてきた」


「何となくで着いてこないで欲しいんだけど」


「はーはっはっは! そう硬いことを言うな。せっかく繋がった縁だ」


 この縁…今すぐ切りたい…!!

 聖都に修行に来て1週間。

 私はミルロウに付き纏われていた。

 どうやら初日の一件で懐かれてしまったらしい。

 正直、毎日の鍛錬よりも精神的疲労は上だ。


「しかし、何で一宗教の教徒に過ぎない僕達が軍隊のごとく身体を痛めつけなくてはならないのだろうな?」


「それはアスラル教の信念の1つが『より多くの弱き者を守るために』っていうーー」


「そんなことはわかっている。ただの愚痴だよ。君は本当に真面目だな」


 そう言ったミルロウは何が面白いのか高笑いした。

 私は再びため息を吐くと宿舎へと歩を進めた。

 全く…、あいつと話すと本当に疲れる。

 と、そこで後ろからカツカツともう1つ足音が聞こえることに気づいた。

 立ち止まると足音も止まる。

 再び歩き始める。

 すると足音も一緒に着いて来る。

 立ち止まる。

 すると止む。

 歩く、止まる、歩くーー


「何なのよ!」


「おぉ! 急に怒ってどうしたミラ? カルシウムが足りていないのではないか? そうだ! 今日の朝食は僕の分のミルクも飲むといい!」


「そうじゃない! あと、それは貴方がミルク嫌いなだけでしょ!」


「ふむ、鋭いな」


「じゃなくて着いて来るなって言ってんの!」


「縛られていた僕を助けてくれた仲じゃないか。冷たいことを言わないでくれ」


 改めて聞くとどんな関係よ、それ。


「あの時は貴方が心配だったから…。アスラル教徒として恥じない行動をしただけよ! 他意はないわ。勘違いしているならやめてちょうだい! 迷惑よ!」


 ミルロウが俯いた。

 言い過ぎた?

 いや、これ位言ったって罰は当たらない筈だ。

 ミルロウが顔を上げる。

 先程と打って変わって落ち着いた、真剣な表情だった。


「しかし、その『アスラル教徒として恥じない行動』を取ったのはあの場で君だけだったのではないか? 他意がないというのならば尚の事、僕は君を信頼できると感じる。これは勘違いかね?」


 私はその真っ直ぐな瞳から目をそらした。

 今言ったことは紛れもなく本心だ。

 そう言われてしまうと返答に困る。


「…貴方がどう受け取ろうが自由よ」


「そうか! それはよかった!」


 ミルロウは例の変な笑い声を上げる。


「でも、余計なことはしないでよ?」


「余計なこと、とは?」


「私は全て、一人でこの修行を乗り越えなきゃ行けないの。馴れ合いはやめて」


 ミルロウは再び黙り込むと誰にともなく呟いた。


「ふむ、君が他の者と関わろうとしないのはそういう訳か…」


「しかし」とミルロウが疑問を口にする。


「ミラは僕を助けただろう? 一人で、と言う割に人には手を差し延べる。君に助けられた者が同じように君を助けようとしたらどうするのだ?」


「助けなんていらないわ。私はただアスラル教の信念に従っているだけ。他人ひとを助けるために強くありたい。助ける筈の他人ひとに助けられる訳にはいかないの」


 私は覚悟を持ってここにいる。

 一人で乗り越えられなければならない。

 お父様のためにも…。


「そうか!」


 ミルロウが笑顔を浮かべる。

 そして、世間話しでもするような軽い調子で口を開いた。


「君は間違っているな!」


読んで頂きありがとうございます。

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