十八話私、聖都へ
「親愛なる教徒達よ、貴方達が今日この時聖都に来てくれたことを大変嬉しく思います」
厳かな雰囲気を纏った初老の男性の声が聖堂内に響く。
壇上に立つその姿はほっそりとしているが弱々しさは全く感じない。
私は聖堂内にいる数多のアスラル教徒達と同じく男性ーー教皇様の言葉に耳を傾ける。
「貴方達はこれから3ヶ月、辛いこと、苦しいことを幾度も経験するでしょう。しかし、私は貴方達ならば必ず乗り越えられると信じています。ああ、そういえば名前を言っていませんでした。立場に甘えていたようです。私もまだまだだ」
そう言って教皇様が「申し訳ない」と頭を下げた。
教徒達の間にどよめきが走る。
「静粛に!」
教皇様の横に控えていた女性が一喝する。
瞬間聖堂が静まり返る。
教皇様がゆっくりと口を開いた。
「私はーー」
「イヤだあああああ!!!」
その時、聖堂の後方から場違いな叫びが聞こえた。
全員の視線がそちらに向く。
「ミルロウ! 諦めなさい!」
後ろでは30代位の男性が私と同い年位の白髪の少年を縄でしばり上げ引きずって来ていた。
「父上は僕が死んでもいいと言うのか!」
「お前は多少雑に扱われるぐらいが丁度いいのです!」
「いーやーだー!!!!」
ミルロウと呼ばれた少年がジタバタと暴れる。
「ふんっ!」
「うっ…」
男性がミルロウを殴り付けた。
鈍い音と共に少年が気を失う。
「お騒がせしてすみません。どうぞ、気にせず続けて下さい」
男性はにこやかに言った。
…今かなりの力で殴ったように見えたけどあの子大丈夫かしら……。
「ロガード? あまり私の孫をいじめないで下さいね?」
えっ!?
その言葉に聖堂が再び、いやさっき以上に騒然とする。
「お言葉ですが父うーー教皇様。この子はこのぐらいで丁度良いのです」
聖堂内は混乱状態だった。
と、そこで先程教徒達を一喝した女性が口を開いた。
ああ…どうかこの場を収めて下さい。
「教皇様! 孫とは本当ですか!?」
貴方もか!
「君は真面目なのに意外とミーハーなところがありますよね…」
教皇が苦笑しながら答える。
それに女性がはっとして姿勢を正す。
「静粛に!」
説得力は微塵もなかったがそれでも効果はあったようで、教徒達が徐々に落ち着きを取り戻していく。
「それでは先程の続きから。私はーー」
「ーーはっ!? 父上っ!! 僕はこのような所にいたくはなーー」
「ふんっっっ!!!!」
目を覚ましたミルロウがロガード神父に殴り飛ばす。
ミルロウは凄まじい速度で吹き飛び壁に激突した。
どさっと彼の身体が地に落ちる。
彼はピクリとも動かない。
「お気になさらず」
いや、気になるよ!
あの子も大概だけど神父も十分おかしいよ!
あれ、生きてるよね?
聖堂内で殺人とかブラックジョークが過ぎるよ!?
と、そこで鐘の音が聖堂内に響き渡った。
「おや? もう時間ですか。それでは途中ですがお開きとしましょう」
教皇様はそう言って壇上を降りていく。
解散の流れとなり教徒達が各々で聖堂を出ていった。
その際の注目の的はぐるぐるにしばり上げられたまま倒れる少年だった。
誰もが彼をちらちらと見ながら聖堂を出ていく。
しかし、彼に駆け寄る者はいなかった。
因みに彼の父親は教皇と共に退場した。
身内とはいえこの扱いの雑さには同情するな…。
あまりに不憫に思えたからだろうか?
私は彼に駆け寄りその肩を揺さぶった。
「んー…」
彼は痛みを堪えるように顔を歪めながら目を開いた。
「君、大丈夫?」
「ん? ああ、割といつものことだ。気にしないでくれ」
いつものことなのね…。
「あと、すまないが縄を解いてもらっても良いだろうか?」
「え、ええ…」
私はきつく結ばれた縄に苦戦しながらも何とか彼の拘束を解いた。
彼は立ち上がり、服の汚れを軽く払ってから言った。
「ありがとう、助かった。僕の名前はミルロウ・シルベニス。君は?」
「私はミラ・ルベール」
「そうか。よろしく頼むぞミラ!」
そう言ってミルロウが手を差し出した。
正直、あまり関わりたくはないんだけど…。
「よろしく!!」
ゴリ押してきた…。
「よ、よろしく…」
私は引き攣った顔で握手を交わした。
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