十七話俺、復活?
目覚まし一時間間違ってました…。
すみません。
「2人ともおはよう! シン、怪我の具合はどうだ?」
リビングに入るとルーカスさんが俺とジリに声をかけた。
『おはようございます』
「おはようございます。もう大丈夫です」
「いきなり大怪我して帰ってきた時は何事かと思ったけど元気になって良かったよ」
ガロが安堵したように言った。
あれから3日、俺は普段と変わらないレベルまで回復していた。
それに関係して驚いたことが1つ。
ミルロウのことだ。
ミルロウは回復の魔法が使えるようで俺もリーラもここのところ毎日通っているがその効果は絶大だった。
最初俺は身じろぎもできない状態だったのに1日で歩けるようになり、その次の日にはもうほぼ回復していた。
そして今日で俺もリーラも患部の包帯が取れる予定だ。
魔法様々だ。
それからリーラが拾った剣のことだが今はミルロウの教会に預けてある。
「確かめたいことがある」とのことだが何が何やらよくわからない。
「ねえ、お父さん? もうミルロウの所行っても良いかな?」
リーラがそわそわしながら聞いた。
「せめて飯食ってからな」
「むー…」
その答えにリーラが不満そうに頬を膨らませた。
リーラは早く包帯を取って例の新しいワンピースを着たいようで昨日あたりからずっとそわそわしていた。
当日ともなれば待ち切れないのだろう。
「それじゃあシン、お兄ちゃん、外で遊ぼうよ!」
「…だめ」
タニアさんが台所から言った。
「えー! もうあたし達元気だよ?」
「1週間は安静にする約束」
小さいが毅然としたタニアさんの声が聞こえた。
「むー!!」
リーラがさらに頬を膨らませる。
後から聞いた話だが、俺達が担ぎ込まれた時一番動揺していたのはタニアさんだったらしい。
何でも世界中の医者や回復魔法使いを引っ張ってきてもおかしくない勢いだったとか…。
動けるようになってからも俺やリーラが外に出ようとするとどこからともなく現れては俺達をひっ捕まえた。
因みにひっ捕まえるというのは比喩じゃない。
猫を相手にしているように俺達を片手で軽々持ち上げるのだ。
リーラですら抵抗できないのだから末恐ろしい…。
ルーカスさん曰く「スイッチが入るとオレよりも頑固で手段を選ばない」だそうだ。
この家で1番恐いのはもしかしたらタニアさんなのかもしれない。
そんなことを考えながら待っていると朝食ができたようだ。
俺とリーラでテーブルに料理を運び、会話もそこそこに食べ始める。
やがて皆が食べ終わったころリーラが俺の手を引っ張った。
「早くミルロウのところ行こーよ!!」
「そうだな」
「教会…で診てもらったら真っ直ぐに帰って来て…ね?」
タニアさんが柱の影から顔だけ出して言った。
格好とは裏腹にその声からは妙に圧を感じた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…ふむ。問題ないな。今日からは激しい運動なども大丈夫だろう」
「そうか。ありがとうな」
教会の奥の部屋で俺はミルロウに傷を診てもらっていた。
「いや、礼には及ばないさ。友人なのだから。所で気になっていたのだが…。君はいつの間にか…その…『硬い態度』が解れたようだが何かきっかけがあったのか?」
ミルロウが言葉を選びながら尋ねてくる。
もしかしたら意外と気を使うタイプなのかもしれない。
『私は知っていますよ。「俺とっ! 友達にーー」』
「だああああああ!!!!!」
ジリの言葉を全力で遮った。
こいつ、人の嫌がることを的確にしてきやがる…!
「いきなりどうしたのだ!?」
ミルロウが動揺している。
「いや、何でもないから!……そうだな! 遠慮し過ぎるのも返って相手を傷つけるって気づいたんだよ」
「ふむ、そうか。確かにそうかもしれないな。僕も今のシンの方が好ましい」
「お、おう…。そっか」
思わず目をそらす。
何だ?
何か気恥ずかしいぞ。
『2時間ほど席を外しましょうか?』
「しなくていいわっ! 邪推すんな!」
「ん? 邪推とは?」
ミルロウが首を傾げる。
「いや、大丈夫。知らなくていいから。」
「ん? そうか。そしたら次はリーラを呼んできてくれ」
「わかった」
俺はシャツを着て部屋を出た。
「リーラ。ミルロウが呼んでる」
「わかった!」
リーラがうきうきで部屋に入っていく。
そしてしばらくしてリーラが部屋から出てきた。
「リーラ、どうだーーん?」
しかし、リーラの包帯は取れていなかった。
「んー。何かね。もう少しかかるみたい…。」
リーラは困ったような顔で笑った。
「…そっか」
「とにかく家に帰ろうよ」
そう言ってリーラは外に歩いて行った。
その背中はいつもより小さく感じる。
帰り道、いつもと変わらない『ような』様子で話すリーラ。
俺は「あっ!」と何かを思い出したように会話を遮った。
「ごめん! 俺、忘れ物したみたいだ! 先に帰っててくれ!」
「あ、え? シンーー」
俺はリーラの返事も聞かず来た道を走って引き返す。
教会の扉を開けるとミルロウの姿が見えた。
「どうした?と聞くまでもないか…。リーラのことだな?」
俺は頷いた。
ミルロウがやり切れない顔で話し始める。
「リーラの腕の傷だがな…。身体機能的には全く問題はないのだが、傷跡は消せなかった。本当にすまない……!」
「え?」
過ぎったのは嬉しそうに新しいワンピースを抱えるリーラの姿だった。
「俺の…、俺のせいだ…」
気づいたときには走りだしていた。
「し、シン!? 待て! シン!」
あの時俺をかばったせいで…、リーラが…!
なのに勝手に一人でやりきった気でいて…。
バカみたいだ。
結局守れてないじゃないか…。
「ぐっ…うっ…」
勝手に嗚咽が漏れた。
本当に泣きたいのは俺じゃないとわかっているのに止まらない。
「し、シン!? どうしたの!?」
リーラが肩を掴んで俺を止めた。
いつの間にかさっきの場所に戻って来ていた。
「ごめんっ!! 俺のっ…! せい……でっ…!!」
俺は感情を吐き出すように叫んだ。
リーラが息を呑む。
「…聞いたの?」
「ああ」
「そんな! シンのせいじゃないよ! シンは悪くない!!」
「俺を庇って負った傷じゃないか! 俺がいなければリーラはーー」
パンっと乾いた音が響いた。
「二度と、言わないで」
遅れてきた左頬の痛みで自分が叩かれたのだと気づいた。
「『俺がいなかったら』なんて二度と言わないで!!」
リーラが泣いていた。
「あたし、聞いたよ? シンが倒れたあたしの側でずっと守ってくれてたんだって! 自分の方がずっと大変なのに最後まで立ってたって! 嬉しかったよ? でも、それより怖かった…。一歩間違ったらシンはここにいなかったんだって…。だから元気になって本当によかったって思った! また一緒にいれるって安心したの! だから……そんな悲しいこと、言わないでよ…。あたしやだよ…、シンがいないのやだよぉ……」
俺は幼子のように泣きじゃくるリーラの頭にそっと手を置いた。
「ごめん…」
「…うん」
俺はリーラの姿を見ながら強く誓った。
今度はリーラも、皆も、そして自分も。
全部を守れるくらい、何があったって笑えるくらい強くなろうと。
読んで頂きありがとうございます。




