十五話俺、失態?
「マッドウルフ…! しかもこの数…。シン! ジリ! 下がって!」
「お、おう」
言われた通り俺とジリはリーラの後ろに下がった。
情けないけど俺にできることはない…。
せめて足手まといにならないようにしなければ。
リーラは例の白い剣を構えた。
それにマッドウルフの群れが一瞬怯む。
有利にも関わらず警戒しながら近づくところといいかなり慎重な魔物のようだ。
群れの左右がゆっくりと広がり俺達を囲みにかかってきた。
「ーーっ! はぁっ!!」
リーラがそれを見て囲まれる前に群れの先頭に斬りかかった。
マッドウルフがそれを横に飛び躱す。
そして、空振りの隙を逃さず後ろの3匹が一斉に飛びかかる。
リーラは空振った勢いそのままに剣を地面に突き刺すと柄を掴んだまま地を蹴り上げ、剣の上で逆立ちのような体制になった。
そこから器用に身体を回転させ回し蹴りを放ち飛びかかって来た3匹を吹き飛ばす。
そして着地と同時に思い切り剣を引き抜くとその勢いのまま近くの一匹を斬る。
「す、すげえ!」
俺はその流れるような一連の動きに思わず見惚れた。
「シンっ!!」
「え?」
リーラがいきなりこちらにすごい速度で戻ってくると俺を突き飛ばす。
俺は後ろの岩壁に背中を打ち付けた。
その衝撃に頭がクラクラした。
「いって……。っ! リーラ!?」
さっきまで俺がいた場所に左腕から血を流すリーラと爪を赤く濡らしたマッドウルフがいた。
鋭い爪に切り裂かれた左腕はダランと力なく垂れ下がっている。
「ご、ごめん…。お、俺…」
言葉が出ない。
目の前まで迫った死の気配に息が詰まる。
そんな俺にリーラはいつものように満面の笑みを向けた。
「シン! 帰ったらきっとお母さんがごはん作って待ってくれてるよね!」
「え?」
そのあまりに場違いな言葉に俺は気の抜けた声を漏らした。
「今日の晩御飯はなにかな? 楽しみだね!」
「リーラ! 何を言ってーー」
「ーー必ず生きて帰るってことだよ」
リーラが強い意志の籠もった声で言い放つ。
「あたしも! シンも! ジリもっ!! 必ず生き残る!! いつもみたいに皆でごはんを食べるんだっ! こんなところで死なないっ! 死なせないっ!!」
リーラが叫んだ瞬間だった。
剣に嵌った緑色の宝石が強く光輝いた。
その眩ゆいばかりの光を前に俺と魔物達は呆然と立ち尽くす。
だが、リーラは違った。
何が起こっているのか全てわかっているように1つ頷くと剣を横に凪いだ。
それはとても攻撃とは思えないようなゆっくりとした動作だった。
一拍遅れて直線状にあった全ての木々と魔物が切り裂かれる。
魔物達の間にひりついた空気が走った。
これはーー風の刃?
「はあっ!」
リーラが今度は気合と共に強く剣を振るった。
風の刃に群れの半分ほどが一気に切り裂かれた。
そこからはまるでリプレイを見ているようだった。
リーラが剣を振るう、マッドウルフ達が倒れる。
その繰り返し。
離れた所にいてもお構いなしでどんどん切り裂いていく。
そうして全ての魔物を倒したリーラは糸の切れた人形のようにパタリとその場に倒れた。
「リーラ!」
俺は慌ててリーラに駆け寄り、抱え上げた。
「リーラ! 大丈夫か! リーラっ!」
声をかけるがリーラは目を覚まさない。
何で!? 何でだよ!?
「おい! リーラっ!! 起きーー」
『落ち着きなさい!』
ジリが一喝する。
『見たところ致命傷はありません。恐らく先程の攻撃で魔力を使い果たしたのでしょう。今は安全な場所に移動する方が先です』
「ご、ごめん。そうだな。リーラ、すぐ連れて行ってやるからな」
気を失ったリーラに声をかけた時だった。
ザッと地面を擦るような足音が響いた。
ゾクっと背筋に嫌な冷たさが走る。
足音のした方を見る。
すると、倒れた木々の間から一際大きなマッドウルフが現れた。
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