十四話俺、また遭難?
「まだ決まらねえのか…」
ルーカスさんが疲れた様子で呟く。
「うーん…。あとちょっと!」
リーラが両手の服を交互に見ながら言った。
『女性の買い物が長いのに年齢は関係ないのですね…』
「それな…」
俺の買い物はすぐに終わったのだが問題はリーラだ。
かれこれ2時間近くあーでもない、こーでもないと服を選んでいる。
ちなみに今手に持っている服は5周目だ。
「んー」
ピンクのふわっとしたスカートと白のスッキリとした印象のワンピースを真剣な目で見つめるリーラ。
「決めた! これにする!!」
そう言ってリーラは白のワンピースを突き出した。
「やっとか…」
うきうきのリーラとは対照的にふらふらとした足取りでルーカスさんはカウンターに向かった。
〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ねえねえ! これやっぱり今着たい!!」
帰りの馬車の中でリーラがはしゃぐ。
「ここじゃ着替えられないだろ? 服は逃げないんだから明日にしなよ」
ちなみにリーラがそう言うのも俺がこう返したのも3回目。
ルーカスさんは珍しくぐったりしていた。
「うーん……。ッ!! おじさん! 馬車止めてっ!!」
リーラが御者に叫ぶ。
唐突に呼ばれた御者は身体をビクッとさせて馬車を止めた。
「リーラ!? どうしーー」
リーラはルーカスさんの声も聞かずに外へ飛び出した。
「リーラ、待って!」
俺もリーラを追って外へ出る。
森の中、見失ったらおしまいだ。
しかし、その心配は不要だったようだ。
リーラは馬車を降りて数十メートルの崖の側で立ち止まっていた。
「どうしたんだよ?」
「何か…変な感じがしたの」
リーラは自分でも訳がわからない、といった顔で呟いた。
『2人とも、とにかく馬車に戻りましょう。きっとルーカスが心配しています』
着いてきたジリに俺達が頷いた時だった。
突如遠くの空に一筋の黒い光が走った。
「ん? なんだよ、あれーー」
瞬間ーー大地が震えた。
立っていられない程の激しい揺れ。
それは地面だけでなく、大気すら震えているのではと錯覚するほどだった。
「きゃっ!」
リーラが足を滑らせ、崖下へと落ちていく。
「リーラ!!」
咄嗟にリーラの手を掴む。
だがこんな状況だ。
踏ん張れる筈もなく俺はリーラと一緒に崖下へ吸い込まれていった。
〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『ーー慎太郎!!』
ジリの大きな声にゆっくりと目を開く。
「ここは?」
「あそこから落ちたみたい」
そう言ってリーラが上を向く。
見るとごつごつとした岩の壁が高く高くそびえ立っている。
その先に俺達がいたであろう場所が見えた。
とても登れそうにない。
「ジリ、ちょっと飛んできてルーカスさんに知らせて来てくれるか?」
とりあえず居場所を知らせれば助けを呼んでくれるだろう。
『それはできません』
「は? なんでだよ」
『私は貴方と20メートル以上離れられません。見たところこの岩壁はそれ以上あります』
そんなの初めて聞いたぞ…。
じゃあ何か? 俺はずっとこいつとニコイチってことか?
最悪なときに最悪なことを知ってしまった…。
「じゃあ俺を連れて飛んでくれよ。お前に掴まるからさ」
『わかりました。因みに最大出力で飛ぶので間違って壁面などにぶつかった場合命の保証はしかねますがまあ、些細な問題ですね』
「些細じゃねえわ!! じゃあやめるよ!!」
人の命を何だと思ってやがる!
『では、どうしましょうか?』
この崖を登る手段がない以上どうしようもない。
「打つ手なし、か」
「ねえねえ」
肩を落とす俺をリーラがちょいちょいと引っ張った。
「あたし、シンが倒れてる間に色々集めて来たんだ!」
そう言ってリーラは自身の後ろを指差す。
そこにはうず高く積み上げられたガラクーーいや、色々な物の山があった。
「…ちなみに何があるんだ?」
「えっとね…まず食べもの!!」
食料か!!
ガラクタと言いかけたが訂正しよう!
もしかしたら宝の山かもしれない!
「何かカラフルなキノコ!!」
「返してきなさい!!」
「えー!? 何で!?」
見るからにヤバそうな毒々しい色のキノコを手に不満そうに頬を膨らませるリーラ。
「いや! それ絶対毒キノコだから!」
「うーん…、それじゃ次は武器! 森は魔物がいっぱいだからね!」
…もう期待しないぞ。
「じゃーん!!」
そう言ってリーラは柄に緑の宝石が嵌め込まれた白い剣を取り出した。
それは妙にきらびやかで何か勇者の剣とか聖剣とかそういう表現がピッタリのーー
「いや落差っ!! いきなりレベル上がり過ぎだろ!? 誰のを盗ってきた? 返してきなさい!!」
「違うよ! 何か落ちてきたんだよー!」
「嘘つけ!!」
「本当だもん!!」
『あのー、盛り上がってる所悪いのですが』
「なんだよ」
言い合う俺達の間にジリが割って入る。
『ーー来客のようです』
そう言ってジリが森の方を向いた。
そこには数十頭の黒い体毛に赤い瞳の狼のような獣の群れがこちらにじりじりと近づいてきていた。
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