十三話俺、助けられない?
シリアス回です。
今回はギャグなしです。
「おーい! 誰かいるか!? この子を診てほしい!」
ルーカスさんが教会の扉を開けて叫んだ。
どうやらこの世界では教会は病院のようなこともやっているらしい。
「おーい! 誰もいないのか!?」
しかし、その声に応える者はいない。
教会の中は閑散としていて人の気配が全くなかった。
「おかしいな。いつもなら神父の爺さんがいるんだが…」
「ん…」
ルーカスさんに担がれた少女が呻くような声とともに目を開いた。
少女は慌てたようにキョロキョロと周りを見渡す。
それに合わせて亜麻色の長い髪がゆらゆらと揺れた。
「お! 目覚めたか! どうだ? 痛いところはないか?」
「あ! すみません! うちまで送って頂いたみたいで」
ルーカスさんが元気そうな様子を見て、少女を降ろした。
『うち? ここは貴方の家なのですか?』
「はい。私はここのシスターをやっている、ミラ・ルベールと申します。この度はご迷惑をおかけしてすみませんでした」
少女は丁寧な所作で頭を下げた。
その紹介にルーカスさんが訝しげな顔をした。
「シスター? 見習いじゃなくてか? 嬢ちゃん、うちの娘と歳変わらないだろ? ここには神父の爺さんがいたはずだが…」
「……トラバス神父は先日亡くなられました。今は娘の私が一人でやっています」
「……! そうか、わりぃこと聞いたな。すまん」
「いえ…」
「しかし、嬢ちゃん。一人で大丈夫か?」
その問にミラは決意に満ちた、しかしどこか必死さを感じる瞳で真っ直ぐにルーカスさんを見返した。
その様子にルーカスさんが息を呑んだ。
「はい。私は神父の娘ですから。心配は無用です」
毅然と言い放つミラ。
突然一人で教会を任された少女の気持ちは如何程のものだろうか?
俺にその気持ちはちゃんとは分からない。
だが、この世界に来て日の浅い俺にもわかるくらい無理をしているのは明らかだった。
リーラも心配そうな顔でミラを見ている。
「そうか。いらん世話焼いたな。シン、リーラ、ジリ! 行くぞ!」
そう言ってルーカスさんは出口へ向かった。
「え!? ルーカスさん!?」
「お父さん! いいの!?」
俺とリーラが呼びかけるがルーカスさんの足は止まらない。
俺とリーラは仕方なくルーカスさんを追った。
教会を出るときに振り返って見えたのは綺麗な姿勢で腰を折るミラの姿だった。
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「お父さん!! さっきのは何!?」
教会を出た所でリーラがルーカスさんに詰め寄った。
『私も聞きたいですね。貴方らしくないように感じます』
2人の声にルーカスさんが振り返る。
「そうだな…。きっとあの子は大人がいくら言っても聞かないだろうな。境遇を分かってやれないお前らでも」
ルーカスさんが歯痒そうに唇を噛む。
「あの子は重責やら親を亡くしたショックやらで殻に閉じこもっちまってる。オレ達が何を言ったってあの子の力にはなってやれない。いつかあの子を本当の意味で分かってやれるやつが現れるのを待つしかねえ」
ルーカスさんは「悔しいけどな」と言って固く拳を握りしめた。
「でも!!」
リーラが叫ぶ。
「リーラ」
ルーカスさんが諭すように名前を呼んだ。
「人の力になるのはいい事だぜ? オレは今までできる限りそうしてきたし、ここで「でも」と言えるお前は自慢の娘だ」
ルーカスさんは一息吐いて「だけどな」と続けた。
「そいつが同情や押し付けになっちゃならねえ。強引さも時には必要だが相手を傷つけるようならそれはただの自己満足だ」
その言葉にリーラが俯く。
「…うん」
ルーカスさんがリーラの頭をがしがしと乱暴に撫でた。
「辛気臭い空気になっちまったな。ほら、気晴らしに好きなもん買ってやるから行こうぜ」
「本当!? じゃあ早く行こう!!」
リーラが途端に笑顔を浮かべる。
その様子に俺は顔をしかめた。
『慎太郎。彼女の手を』
ジリが俺に囁く。
言われた通りに見るとその手は手のひらに爪が食い込む程強く握られていた。
ーー飲み込み切れないが納得はした、ということなのだろう。
『彼女は私達が思っているよりずっと大人なのかもしれません』
「…だな」
そう言って俺達は先を行く2人を追いかけた。
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