十二話俺、街デビュー?
「シン、お前欲しい物ないか?」
「え? いきなりどうしたんです?」
アーツ家に居候し始めて数日。
何とかちゃんと喋れるようになってきた今日この頃。
朝食の席でルーカスさんが唐突に言った。
「いやー、そういえばシンの日用品を何も買ってなかったと思ってな。服もガロのお古ばかりじゃ嫌だろ?」
俺の服はガロが昔着てたやつをそのまま使わせてもらっている。
動きやすいし全く気にしたことはなかった。、
「いや、充分ですよ。特に不便してないですし。それに俺、一文無しですから行っても買えませんよ」
「金は出してやるさ」
「いや、悪いですよ」
衣食住、全て用意してもらってるのにお金まで出してもらうのは流石に…。
「お前、意外と頑固だよな。あー…んじゃ、オレの仕事手伝ってくれてるだろ? その報酬ってことで」
俺はあれからルーカスさんの鍛冶屋を手伝っている。
といっても倉庫を整理したり言われた材料を持ってきたりと簡単なことばかりだが。
「あれはただのお手伝いじゃないですか」
「手伝いだろうがどんなに簡単だろうが仕事は仕事だ。労働には報酬で応えるのが店主としての義務ってやつだ。ガロやリーラにだって手伝ってもらったときは小遣いだったり物だったり渡してんだ。断らせないぞ」
ここまで言われては断るのは返って失礼になってしまう。
「わかりました。ありがとうございます」
「よし! それじゃ準備したら隣街に行くぞ。ガロとリーラはどうする?」
「おれはいいやー」
「あたし行きたい! 街に行くの久し振りだもん!」
リーラがはしゃいだ。
『楽しいところなのですか?』
「うん! 美味しいものがいっぱいあって、後キラキラの服とかね、とにかくすごいのがたくさんあるの!!」
リーラが目を輝かせながらそう言った。
でも、異世界の街か…。
確かに楽しみだ。
どんな場所なんだろう?
〜~~~~~~~~~~~~~〜~~~~~~
辻馬車に揺られて一時間程、俺達は隣街ーーコルラドの入口で馬車を降りた。
まず目に入ったのは高い石造りの壁と立派な門だった。
石壁はグルっと円を描くように街を囲っているようだ。
俺達は門番に挨拶しながら街に入った。
そしてその瞬間、華やかな喧騒が飛び込んできた。
すぐ正面には巨大な噴水がありその周りでは大道芸人らしき人が様々な芸を披露していた。
水や炎を空中で様々な形に変えたり、トランプが空中を踊ったりと元の世界では見たことのないものばかりだ。
これが魔法か!
その光景に目を丸くしているとリーラが嬉しそうに笑った。
「へへー、すごいでしょ?」
リーラが得意気に言う。
「ああ。見たことないのばっかだ! すげぇ!!」
そして、噴水の方へ駆け出した瞬間ーー
「助けてええええ!!!」
切羽詰まった声が上から振ってきた。
咄嗟に上を見上げると空中を無茶苦茶な軌道で動き回る茶髪の少女の姿があった。
「ありゃあ自分の魔力を制御できてねえな」
ルーカスさんが呟いた。
「とにかく落ち着かせなきゃならんが、あんなとこにいるんじゃ話もできねえ」
ルーカスさんが渋い顔をした。
「あ、ジリなら行けるんじゃない? ねぇ、どうかな?」
『では、私が行きましょう』
ジリがふわーっと空を飛び少女の元へと向かった。
『落ち着いてくださーー』
「板が喋った!!!??」
更に動揺した少女は真下に急降下し、そのまま地面に突っ込んだ。
『……私のせいですか?』
「いや…まあ一応降りて来たんだし結果オーライってことでいいんじゃない?」
丁度俺達の目の前に落ちた少女は目を回したまま動かない。
だが怪我などはなさそうだ。
『そうですか。所で慎太郎。私はやっぱり喋る板なんでしょうか…』
目の前の少女より重傷のやつがいた。
「お前ら! とりあえずこの子運ぶぞ。着いてこい」
ルーカスさんは少女をひょいと担ぎ上げると噴水奥の大通りへと歩いて行った。
俺とリーラ、ジリはそれに続いた。
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