十話俺、無力?
「はーはっはっは!」
身軽に跳び回るミルロウ。
「どうした? もうギブアップか?」
タッチを全て躱すガロ。
『そうなのですか? 鈍臭い上に根性なしとは救えませんね』
空を飛ぶジリ。
「大丈夫!! ファイトだよシン!」
ぶっ飛んだ身体能力のリーラ。
この中で勝機があるのはーー。
「お! 僕狙いか!」
俺はミルロウに向かって行った。
素早くはあるが空を飛べるジリと違ってミルロウのはただの跳躍だ。
つまり空中で方向転換はできない。
着地地点を予測して先回りすれば捕まえられるはず!!
ミルロウの動きを注意深く見ながら追う。空中を移動しながら左右の壁を交互に蹴り上げどんどんと高度を上げていくミルロウ。
やがて最高度に到達したミルロウが天井を蹴って一気に急降下を始める。
今だ!!
着地地点はーー女神像の前。
俺は全速力で走りだす。
速度はミルロウだが像までは俺の方が近い。
いける!!
「良い狙いだ!! シン!!」
楽しそうに笑うミルロウ。
そして、ミルロウの着地と同時、手を伸ばす。
ーー届く!!
「だが、甘い!!」
瞬間、更にスピードを上げたミルロウが後ろに飛び退く。
まだ速くなるのか!?
「はーはっはっは!! 惜しかったなシーーのおっ!?」
そしてミルロウは女神像に突っ込んだ。
「大…丈夫か?」
「いたた…、ん? ああ、大丈夫だ!! 少しぶつけたが問題はない!!」
ミルロウが「心配ない」とサムズアップする。
「いや、そうじゃ…なくて、後ろ…」
「後ろ?……なぁっ!?」
ミルロウの後ろには腰から上半身の折れた女神像が…。
「マ、マズい…これはマズいぞ…」
青ざめるミルロウ。
そして全員女神像の前に集まってきた。
「どうしよ!どうしよ!どうしよー!?」
「あー…ま、なんとかなるんじゃね? 雷が落ちてきてーってのはこの前使ったんだっけ?」
『この前、というのは?』
「ああ、こいつこれ壊すのもう3回目なんだよ」
何て罰当たりな…。
俺はその不憫にも下半身とさよならした女神像を見やる。
祈りのポーズは今や助けを求めているようにしか見えないーーってこれもしかして。
「ノエルさん?」
「そうだ…。これは我がアスラル教の女神、ノエル様の御神像だ…、ああ…父上に怒られる…」
やっぱりそうなのか。
本当に神様なんだな。
信じていなかった訳じゃないけどこうして目の当たりにするとより実感が湧く。
『こういう言い方は不謹慎ですが初めてじゃないのなら今回も何とかなるのでは?』
「いや…そうも行かないのだ…」
ミルロウが呆然と言う。
「父上が『次壊したら聖都に3ヶ月修行に出す』…と」
「そりゃ御愁傷様。ま、頑張れよ」
「少しは心配してくれないか!? ガロは時々本当に友人なのか疑わしい時があるぞ!?」
「聖都…ってそんなに大変…なのか?」
「大変なんてものではないっ!!!」
ミルロウが叫ぶ。
「聖都シルベーヌはアスラル教の総本山!! その修行は生死にすら関わると言われているのだぞ!? そんな所に行ってたまるものか!」
ミルロウは酷く慌てている。
「それならミルロウのお父さんが帰って来るまでに治せばいいんだよ!! そしたらミルロウは怒られないし聖都にも行かなくて済むでしょ!!」
リーラが名案とばかりに胸を張る。
「治すって言ったってなあ。おれ達素人だぜ? できんのか?」
『無理でしょうね。せめて簡単に部品をくっつける手段があれば別ですが』
「ん? いや…あるぞ!! ちょっと待っていてくれ」
何か思い出した様子のミルロウが教会の奥の部屋へと駆けていく。
数分後、ミルロウが水色の壺を持って戻ってきた。
「先日、うちに泊まった旅商人が寄付してくれたものでな。南方の実をすり潰して作った接着剤だそうだ」
中を見ると紫色のどろっとした粘性の高そうなものが詰まっている。
「これで治すのを手伝って欲しい!! 頼む!!」
ミルロウが頭を下げる。
「もちろん!!」
「まあ、おれ達も一緒に遊んでたしな。いいぜ」
「う…ん」
『私も構いません』
「か、感謝するぞ!! 我が親愛なる友人達よ!!」
ミルロウが目をキラキラさせて言った。
と、友達…!!
い、今友達って!!
遂に俺にも友達が…!!
「これをこっちに戻せばいいんだよね!! かんたん!かんたん!」
リーラがノエルさんの像の上半身を持つ。
ノエルさんの両腕が取れた。
「あ、あれ?」
「のオオオっ!!!? リーラ!? な、何をするのだ!?」
「ち、違うの!! わざとじゃないの!!」
リーラがノエルさんの腕を持ったまま手をブンブン振って否定する。
ノエルさんの腕がさよならした下半身にぶつかった。
下半身が抉れた。
「リーラ!?」
『だ、大丈夫です。とりあえず取れた腕から元に戻しましょう。慎太郎、接着剤を断面に塗ってくっつけて下さい』
「わ、わかった!」
リーラから慎重にノエルさんの右腕を受け取る。
「んじゃ、おれは左腕を」
ガロは左腕を受け取った。
もうこれ以上はミスできない…。
慎重にやらなければ。
「あ…」
「…おいガロ、今の「あ…」は何だ。何やった?」
「いや違うぜ、シン。ちゃんとくっついたぜ? ただ、ちょーっとアレンジが入ったっつーか…」
「それってどういうーーあ…」
ノエルさんの右肩に左腕がくっついていた。
「おめぇ! どうすんだこれ!?」
「えーっと…。あ! こうすれば大丈夫だ!」
ガロが俺の手から像の右腕を奪って左肩にくっつけた。
祈るポーズだったノエルさんが女の子走りみたいな格好になった。
「ほら、何か楽しそう」
「バカ野郎があああ!!!」
神聖だった石像は今や禍々しさすら放っている。
「ふ、ふふふっ…。僕は聖都から帰って来れるだろうか…、ふふふっ…」
マズい。
ミルロウが壊れ始めた。
「と、とりあえず、一回外さないと!!」
俺は右腕を掴んで引っ張った。
しかし、中々腕は外れない。
「このっ!」
更に力を入れてーーあ。
右腕が肘から折れた。
『い、いよいよ収集がつかなくなってきましたね…』
「ミルロウー! 帰りましたよー!」
教会の外から男の声が聞こえる。
まさか…。
「ち、父上!?」
「ゲームセットだな。まあ、きっと聖都も悪くないって。知らんけど」
ガロは教会の窓を開けて縁に足をかける。
「ガロ!? 僕を置いていくのか!?」
「ミルロウ? 大丈夫?」
リーラが心配そうにミルロウの顔を覗き込む。
「リ、リーラ…!! 信じていたぞ!! 君は助けてくれーー」
「リーラ! 帰ったら『たたかいごっこ』してやるから来い!」
「ほんと!? やったー!!」
「ガロおおおおおお!!!」
「ガロ、流石に可哀想だ。一緒に謝ろう。」
『私も同意見です』
「ミルロウの親父はおれの親父より手が早い」
「聖都でも頑張ってくれ、応援してる」
『貴方のことは忘れません』
「待ってくれええええ!!!!」
俺達はミルロウの悲痛な叫びを背に外に飛び出した。
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