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一話俺、死んだ?(前編)

『シン。あなたはもういらないの』


  金色の長い髪を風に揺らしながら言う君の姿が今も頭に残っている。

  君のその言葉を、声を、顔を、1日だって忘れたことはない。

  そして今、俺の前にはーーボロボロの君が倒れている。







 夕暮れに照らされた通学路を1人歩く。

 かじかむ手をコートのポケットに突っ込んだ。

 しかし、あまり変わりはない。

 そして、その寒さが孤独感をより強くした。


「今日も友達できなかったなぁ…」


 もう中学一年が終わろうかという時期。

 俺、『小宮こみや 慎太郎しんたろう』の悩みは入学当時と全く変わっていなかった。

 生まれてこのかた友達ができた試しがない。

 話しかけられても緊張からうまく喋れず、自分から話しかける勇気もない。

 俺は順調にぼっちの道を歩んでいた。


「もう俺の頭じゃどうにもならん気がしてきた…」


 俺はポケットからスマホを取り出す。

 これだけは負けた気がするのでやるまいと思っていたが背に腹は代えられない。


「ヘイ、ジリ」


 ピコン、という音と共に機械音声が流れ出す。


『ご用件は、何でしょうか?』

「友達の作り方」

『友達の作り方、の検索結果を表示します』


 あああああああ!!!!

 言ってしまったああああ!!!

 これだけは! これだけは惨め過ぎてやりたくなかったのにいいいい!!!


 スマホに目を落とすと『友達を作る方法』という見出しに箇条書きで文が並んでいた。

 上から順に目を通していく。


 ①他人を誉める。


 話しかける相手がいない場合はどうしたらいいのでしょうか…。


 ②速攻で距離を詰める。


 そんな積極性があったら苦労してないんですが…。


 ③友達の友達と繋がる。


 友達がいない人はどうすればいいのでしょうか…。


 ④昔の友達と再会する。


「いねぇっつってんだろ!! 喧嘩売ってんのか!」


 友達の作り方を検索したはずなのに友達がいる前提なのはどういうことだ!?

 え?

 友達って標準装備なの?

 皆強くてニューゲームなの?


「ちょっと…あの子…」

「ねぇ…?」

「あ…」


 ふと周りを見ると他の人が不審そうにこちらを見ていた。

 俺は居たたまれなくなってその場を駆け出した。







「ただいまー…」

「おかえりー!」


 家のドアを開けるとリビングからカレーの匂いと共に母さんの声が聞こえた。

 そのままリビングに向かうと台所に髪を後ろでまとめたエプロン姿の母さんが見えた。


「すぐできるからお父さん呼んできてもらえる?」


 てきぱきと準備しながら目線だけこちらに寄越して言う母さんに頷いた。

 俺は二階に上がってすぐ左の部屋を二回ノックした。


「父さーん! ご飯できるってー!」

「お、そうかー。すぐ行く」


 ドア越しに返事を確認してリビングに戻るとテーブルには既に三人分のカレーが並んでいた。


「お父さんは?」

「すぐ来るって」


 そして俺と母さんが席に着くのと同時にTシャツに半ズボンとラフな格好の父さんがリビングに入ってきた。

 父さんは何か小説を書いているらしい。

 らしい、というのは俺もそこのところ詳しく知らないからだ。

 ただ、母さんが専業主婦をやっているくらいだから結構売れているのだろう。


「お! 美味そうだな!」

「今日のは自信作よ!」


 母さんが「ふふんっ」とどや顔で答える。

 ちょっと腹立つな。

 何でだろ?


「何か腹立つなー。何でだろ?」


 父さんは首を傾げた。


「何でよっ!? あなた酷くない!?」

「そうだよ。父さん酷いよ」

「いや、慎太郎は絶対同じこと思ったろ…」

「失礼な! そんなこと思う訳ないじゃないか!」


 父さんが恨めし気にこっちを見てくるが当然知らんぷりした。


「慎太郎~?」


 やべ…、母さんにバレたっぽい。


「ま、まあ冷めちゃうから早く食べようって!」


 俺は慌てて話を逸らした。


「はぁ…それもそうね」


 上手く躱せた、というより母さんが諦めてくれたみたいだ。

 そして俺たちはようやくカレーに手をつけ始めた。

 リビングに流れるクイズ番組に家族であーでもないこーでもないと言いながら一通り食べ終わったころ父さんが一つ咳払いをした。


「あー…慎太郎、学校はどうだ? 友達はいるのか?」


 その質問に内心ドキッとしつつ俺は努めて笑顔を作った。


「うん、大丈夫大丈夫。何も心配ないって」

「そうか、ならよかった」


 そう言って父さんは笑った。

 その笑みに胸の奥がわずかに痛む。


「あ、俺ちょっとコンビニ行ってくるよ。何かいる?」


 俺はそれを誤魔化すように立ち上がって言う。

 この場にいるのが辛かった。


「いや、俺はいらんな。母さんはあるかー?」


 父さんが振り返って洗い物をしている母さんに尋ねる。


「そうね~、どや顔しても『腹立つ』とか言わない夫が欲しいわ~」

「何もいらないそうだ。気をつけて行って来いよ」


 父さんは何食わぬ顔で言った。

 メンタル強過ぎだろ…。







 すっかり日の落ちた夜道を一人歩く。

 嫌でも頭を過ぎるのはさっき吐いた嘘。

 こんな俺でもいつか後ろめたさを感じずに友達の話ができるようになるんだろうか?

 そんな事を考えている間に気づくとコンビニの前にいた。

 駐車場にはトラックが一台だけ止まっており、運転手らしき男が千鳥足で運転席に乗り込むところだった。

 危ないなぁと思いながら自動ドアをくぐる。

 店内は俺以外誰もいなかった。

 店員は裏だろうか?

 俺はアイスを取ってレジに向かう、が相変わらず店員の姿は見当たらない。

 声、掛けなきゃだめだよなー…。

 こういうの本当に苦手だ。

 こんなだから友達の一人も作れないのだとは分かりつつもどうしようないのだからしょうがない。

 しばらく待ったが店員が出てくる気配はない。

 俺は迷った末、アイスを売り場に戻して出口に向かった。

 ため息を吐いて顔を上げた俺が見たのはーー突っ込んでくるトラックの姿だった。

 そして、それが俺の最期に見た景色だった。





「ーーハッ!!」


 身体をビクッとさせて目覚める。

 背中を嫌な汗が伝った。

 夢、だったのか?

 わからない。

 そして、わからないのはあれが現実かってことだけじゃない。

『この状況』もだ。


「どこだよ…ここ」


 俺は無数の星の海の中にいた。

 足元も周りも天体望遠鏡で見たようなキラキラとした星達がどこまでも広がっている。

 あまりに現実味に欠ける光景、状況。


「なんだよこれ…」


 ここは夢?

 トラックが突っ込んでくる記憶が現実?

 訳が分からない。


「半分だけ正解です」


 俺の自問自答に女性の優し気な声が答える。

 驚いて声の方を向いて、俺は言葉を失った。

 そこには真っ白なドレスを纏うスラリとした女性が立っていた。

 歳は20代半ばといったところか。

 透明感のある白い肌に足元まで伸びる流れるような銀色の髪、宝石のような緑色の瞳にスッと通った鼻筋。

 その恐ろしいまでに整った顔立ちはこの世のものとは思えないほどの美しさだった。


「そこまで言われると照れますね」


 女性は恥ずかしそうに人差し指で頬を掻きながらはにかんだ。


「えっ!?」


 何で俺の考えてることが分かったんだ!?

 まさか俺は思ったことが無意識に口に出る鈍感ラノベ主人公体質だったのか!?


「ふふっ、そうではありません」


 女性は幼子を諭すように優しく言った。

 そしてその細く綺麗な人差し指をすっと立て自身の唇に当てると悪戯っぽく微笑んだ。


「私、実は心が読めるんです」


「えっ!?」


 嘘だろ!?


「嘘じゃありませんよ。なんてったって神様ですから」


「は?」


 いや……は?


「大分混乱していますね…」


 自称神様はそう言って「アハハ…」と困ったように笑った。


 いや、アハハじゃないが?

 困っているのはこっちだ。

 さっきからさっぱり状況がわからない。

 訳分からん場所に訳分からん女。

 こんなのアニメか漫画でしか見たことない。

 まさか次は俺は死んだとか言うんじゃないだろうな?

 そんな馬鹿なことーー


「そうです」


「え?」


「貴方は先程命を落としました」


 そう言った女性の顔は先程と打って変わってとても悲痛で。

 その表情がそれが嘘ではないと、紛れもない事実だと後押ししているようだった。

 血の気が引く。

 様々な事がらが意識する前に頭を過ぎっていく。


「いや、そんな訳ないだろ!? だって俺は今ここにいて…!! アンタとこうやって話して…!!」


 自然と声が大きくなる。 

 身体の感覚がぼやけて立っているのか座っているのか分からない。


「あ! テレビのドッキリとか? じゃなきゃ配信とか…、そうなんだろ!? なあ!? 質悪いって!!」


「事実です」


 女性は辛そうに、だが毅然と言い放った。


「え…? は…? なん…で?」


 足元に水滴が落ちていく。

 それが自分の涙だと気づいたのは叫ぶとも泣くとも分からない声が耳に届いてからだった。



白田二斗しろたにとと申します。

読んで頂きありがとうございます。

長くなってしまったため一話は分割となっています。

まとめて2話投稿しているので次も読んでいってくれると嬉しいです。

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