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ゼシオの街――まずは宿探し

『歌声』シリーズ七話目です。

ちなみにこのシリーズは全十話(予定)。


 この辺りでは最大規模の街だろうと思われた。

「こりゃ凄いな」ファンテが呟く。




 二人は自らの視界を埋め尽くす、高く積まれたとある街の石壁を、首が痛くなるほど見上げていた。



「いやあ大きな街だねぇ」長い黒髪を後ろで束ねた女性、リーンが感心した声を出す。



 流石に首が保たない、彼らは視線を元に戻した。




 リーンとファンテが旅を始めてもうすぐ二年になる。今はひたすら南下中で、南下を始めてからは直に一年が経つ。どのくらい大陸を進んだのかは分からないが、ここへ来て大規模な街を見つけた。



「どうする? 入る?」心は既に決まっているだろうに、リーンは一応ファンテに聞いた。

「どの道、目的はないからな。いいぞ、行こう」

 やった、リーンはガッツポーズを決める。




「但し、俺の側を離れるなよ」釘を差した。

 ここら一帯では『世界新党』なる組織が活動中だと言われている。彼らは芸術や文化全般を人々を堕落させるものとして毛嫌いしていると言われ、彼らにリーンの歌を聞き咎められたら、どんな事をされるか見当もつかない。ただでさえここは歌のない世界(・・・・・・)。リーンの歌は、(そう)だと言うだけで嫌でも人目を引くのだ。



「うん、了解です」彼女は神妙な顔で頷いた。





 街の名はゼシオ。人口は十万に届くか届かないかと言ったところだ。往来を行き交う人々は活気に満ちている。



 ――中々、良い街じゃない。

 リーンはきょろきょろと街並みを見回した。建物は低層のものが中心だ。道に沿って出ている屋台が、如何にも美味しそうな料理を振舞っている。食べたいとは思うが生憎、この街の通貨を持ち合わせていない。




 リーンの隣を歩くファンテの顔を、すれ違う女性達がかなりの確率で二度見して行く。そうなるのも頷ける。彼の顔は反則級に整っているからだ。リーンはいつも、彼の顔ならモデルでもなんでも務まるはずだと思っている。長く伸びた銀髪を後ろで束ね、目元はきりりと引き締まり、両の瞳は青。綺麗に通った鼻筋と色香のある唇。それらを受け止める輪郭も理想的な卵形で、美しかった。




 ――相変わらイケメンだよなあ。

「ね、ファンテ。この辺りにならいるんじゃない? その……エルフとか、ドワーフとか」




 ファンテは旅の仲間に怪訝な顔を向けた。

「それが何を指すのか、全く分からないんだが」

「えー、そんなあ」リーンは眉尻を下げ、心底残念がる。折角の異世界なのに、とか、人間ばっかり、とか、小さく呟くのが聞こえた。



「お、あの建物、ひょっとして……」

 ファンテが指さしたのは通りの一方、その片隅だ。大きめの会館のような建物があった。門扉は開かれており、ちらほらと人の出入りがある。建物の前まで行って看板を見上げる。




「おー、こんな所にもあるんだねぇ」

「まあ、俺やお前の資格(ライセンス)は無効だろうがな。とにかく入ろう、情報が欲しい」



 リーンが頷き、二人は『ゼシオ冒険者組合(ギルド)』と書かれた看板の下に入って行った。















 ゼシオ冒険者組合は冒険者の斡旋から通貨の両替まで、この街の便利屋のような役割を担っている場所だった。




 街の通貨はジオ。リーンの感覚だと一ジオは百円くらい。取り敢えず手持ちの銅貨を二十五枚交換し、百ジオを得る。銅貨一枚五百円だと思っているリーンからしてみればちょっとぼったくられていると感じたものの口には出さなかった。両替商には金貨は持って無いのかと聞かれたが、ファンテは笑って「持ってないよ」と答える。リーンは察する。きっと、魔法の鞄(フォルダブル)も、見せびらかさない方がいいのだろう。知らない土地だけに用心しなくては。金目のものを奪いに来る連中がどこに潜んでいるか。




 当然ながら二人の冒険者資格(ライセンス)は無効だった。が、ファンテが話をつけてこの辺りで有効な資格証を改めて発行してもらった。



 ゼシオはこの辺りを支配する国、ゼシオソートの首都に当たる街だという。ゼシオを中心に幾つかの街が統治されており、全人口は二十万を超えるらしかった。




「で? あんたらはそんな北の外れから何しにこんな所まで来たんだい」

 窓口の男はファンテに問いかけた。リーンと彼を交互に見て、値踏みするような目だった。




「まあ色々だよ。見聞を広める為とかだな。それより、街のことを教えてくれないか」

 男は地図を出し、一通り周辺の施設について説明してくれた上に、ファンテが希望した『世界新党』についての資料も渡してくれた。礼を言って、窓口を離れる。




 会館の片隅、二人はそこで壁に凭れ掛かり、行き来する人々を眺めた。久し振りに見る沢山の人間。南方系とでも言うのか、彼らの顔立ちには少々野性味があり、肌色も褐色だ。




「南の果てまで来たな、俺達」

 ファンテが腕を組み、言葉に感慨を込めた。




「そうだね。久し振りに、ちょっと滞在しよっか」

 リーンの言葉にファンテは頷く。




「じゃ、まずは宿からだな」

 ついでに仕事を受けないか? という誘いは断り、二人は組合会館を出た。

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