ルオーネの事情
よろしくお願いします。
ルオーネは天童家で借りた布団に横になり、善人のことを考えていた。
見るからに人のよさそうな青年、ルオーネの眼から見ても善人で人格が標準以上のレベルだった。
自分に優しくしてくれた人間を善からぬ道に誘い込むのは心が痛むが、だからこそ得られるものも多く、ルオーネの状況を一気に好転させてくれる可能性もある。
この世界、地球という星に人間が繁栄している世界以外にも2つの世界が存在している。
一つは天使と呼ばれる者が住む世界。もう一つが悪魔と呼ばれる者が住む世界。
それぞれ人間から糧を得て、力を得ている。
天使は人間の格を上げることで力を、悪魔は人間の格を下げることで魔力を得ることが出来る。
ルオーネは悪魔だった。ただし、一族イチと言われるほどの落ちこぼれだ。
ルオーネは今回の人間界への遠征前の家でのやり取りを思い出す。
「ルオーネ! いったいいつになったら人間を堕とせるの!」
屋敷に母の声が響く。家族そろっての夕食の席でルオーネは叱責されていた。
ルオーネはすみませんと謝りながら、一番端の席で身を縮めて耐えるほかない。同じテーブルには母の他に父、さらには姉たちがついているが、この場にルオーネをかばってくれる者はいない。
父は厳しい表情をしたまま何も言わず、姉たちはニヤニヤと笑いながら、ルオーネに蔑みの目を向けてくる。
ルオーネ、フルネームは、ルオーネ・マ。マ一族は悪魔の中でも有力な一族だった。先祖は数多の人間を色欲に溺れさせ、あらゆる罪を犯させた。その祖先の影響かマ一族には美しい者が多く、悪魔としての才にも恵まれた者ばかりである。
ルオーネもその例にもれず、美しい容姿に恵まれて生まれたが、悪魔としての力はとても名門一族の悪魔と呼べるものではなかった。
そもそもの性格が悪魔なのに、人が良く、気も弱い。今まで一度も人間の格を下げることに成功していない。
「今すぐに人間界に行って、人間を堕としてきな。次もダメなら、あんたはもう一族の悪魔じゃないよ!」
その瞬間、ルオーネの身体は勝手に立ち上がり、部屋の出入り口に向かって進んでいく。ルオーネの身体に自由が戻るのは人間界についた時だろう。
ルオーネは考える。自分をこのように扱う一族に未練はない。ただ、一族から放り出されれば本当に行く当てがなくなる。何とか魔力を手に入れ、一族に認められる力を得るには人格が高い人間を堕とすしかない。