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堕ちた僕  作者: uraken
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不可思議な力

よろしくお願いします。

「あの人、何かおかしいって。どこに傘を貸してもらっただけで、あそこまで言う人がいるのよ!」

 ルオーネさんを部屋に残し、僕は良子に連れられて彼女の部屋に来ていた。

「いや、僕もそう思うよ。けどルオーネさん僕の言うこと聞いてくれなくて……」

 僕が言い訳するも、妹がそれで治まったことはこれまで一度もない。

「お兄ちゃんじゃ話になんない! もういい、私が言ってくる!」

 そう言うと良子は僕の部屋に足音荒く戻っていく。




「すみません、お礼はお気持ちだけで十分です」

「そういうわけにもいかないんです」

 僕が良子の後を追って部屋に戻ると二人が話し始めたところだった。

「意味わかんないです。こっちがいいって言ってるんですから、いいじゃないですか」

「いえ、どんなことでもいいので、天童さんの、その…願いを叶えさせて頂きたいんです」

「はあ!?」

 そのめちゃくちゃな主張に良子が素っ頓狂な声を上げる。

 たしかに言ってることは普通じゃない。明らかに怪しいことを言っている。だけど、なぜだろう。ルオーネさんが時々見せる優しくも悲しげな、こちらを気遣いつつも申し訳なさそうな表情が気になり、怪しいことを企んでいる悪い人とはとても思えなかった。

「な、なあ良子。ルオーネさんがどういったつもりでそう言っているのか、落ち着いて詳しく聞いてみてもいいんじゃないか?」

 おずおずと良子に意見を言うとすぐさま反論が返ってきた。

「何言ってるのよ。お人好しにもほどがあるわ。そんなんだからいつも損な役回り押し付けられるのよ」

 そうなんだよなあ。僕は人を強く責めたり、意見するのが苦手で、いつもあまり人がやりたがらないことをやることになることが多い。まあ、それも誰かがやらなければならないのだから、僕自身はそれを引き受けることに嫌な気持ちはないのだが、僕をそばで見ている妹はそうではないようだ。

「そうは言ってもさ、この土砂降りの雨の中、ルオーネさんを無理やり外に放り出すわけにもいかないよ」

「……」

 良子は無言で返すが、表情を見てると渋々とではあるが、僕の言ったことを認めているのが分かる。

 何だかんだ言って、妹は優しい性格なのだ。

 

「それじゃ、僕が話聞くから」

 良子にここからは僕が引き受けると伝える。

「リビングに居るから、何かあったらすぐ呼んでよ。あと、変なことしないこと」

「しないよ!」

 まったく、僕を何だと思っているのか。



 良子がいなくなった部屋で、改めてルオーネさんと向き合う。

「騒がしくてごめんね」

「いえ、私が原因ですから。こちらこそすみません」

 ルオーネさんが謝罪してくる。さっきまで黙っていたのは、自分が喋ると余計話がややこしくなると考えたんだろう。

「それで、早速本題だけど、何でそんなにお礼したがるの? さっきも言ったけど、ただの安物傘だし、そのまま持って帰ってもらって本当に大丈夫だよ」

 ルオーネさんに改めて伝えると、

「そ、それは……、その、家の教えで人からタダで物を頂いてはいけないと、厳しく言われているんです。それで傘をお借りしたからには何かお礼をしないといけないんです!」

と帰ってきた。

 そんなに厳しい教えなのかなあ? 宗教的なこととか? どちらにしろ、お礼は大丈夫といくら言っても聞き入れそうにない。

 ならば、と僕は

「お礼ってどんなこと?」

と聞いてみた。お礼は必要ない、と言ってもダメならとりあえず話を進めて打開策を探ろう。

「天童さんの望みをおっしゃって下さい。私がそれを叶えるために力をお貸しさせて頂きます!」

 自分の提案が受け入れてもらえたと思ったのか、ルオーネさんが興奮気味にまくし立ててくるが、僕としては戸惑うばかりである。

「いや、そんなこと急に言われても」

「天童さんくらいの男性ならあるはずです。女性と色々したいとか、お金が欲しいとか。あ、天童さんくらいの歳の人は皆、学校というところで一緒に集まって活動するんですよね。そこに憎い人がいるとか、何かありますよね!」

 一気にまくし立ててくるが、内容が物騒なものばかりだ。僕ってそんなことばかり考えてるように見られてたんだろうか。

「いや、そんなこと考えてないよ。そもそもそんなこと僕が思ってたとして、ルオーネさんはどうするつもりなの。叶えるなんて無理でしょ」

「お手伝いなら出来ます。人が来ないようにしたりとか、鍵を開けたりとか、武器を用意したりとか、色々です」

 な、何を言っているんだ。頭がクラクラしてきた。

「いやいやいや、何言ってるの? そもそも、そんなこと出来るはずがないし」

 ルオーネさんは実はやばい人だったのだろうか。

「あの、これを見てください」

 そう言ってルオーネさんが人差し指をピッと立てて、前に出す。

 するといきなり、ボッとライターのように指先から炎が出てきた。

「えっ!!」

 驚いた僕が何かトリックでもあるのかと指をあらゆる角度から見るが、何も仕掛けがない。

「私、こういった不思議なことが出来るんです。他にも手を使わずにモノを動かしたり出来ます。小さいものしか無理ですけど……」

 最後のほう、恥じるように小声で伝えてくるが、マジか。僕は今とんでもない人を前にしてるんじゃないだろうか。世の中には科学じゃ証明できない不可思議な出来事も存在するとはテレビやネットで観たことはあるが、まさかルオーネさんも!?

「それで、何か叶えたい願いはないですか」

 またしてもルオーネさんが催促してくる。何かさっきからやけにこだわるな。ただ、僕には本当にそういった願いはない。今の生活に十分満足しているのだ。強いて言えば、

「この部屋の窓が開け閉めしずらいから、直ったらいいなあとは思ってるけど」

と無理やりひねり出す。

 しかし、ルオーネさんはどこかがっかりしたような顔で、無理だと告げてきた。まあ、本気でルオーネさんにどうにかしてほしいと思ってたわけでもなし、何の問題もない。

 すると、ルオーネさんは意を決したようにこちらを見て、

「今日、ここに泊めてください!」

なんてとんでもないことを言ってきた。

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