堕ちた僕
よろしくお願いします。
マユーネの鎌がルオーネに触れようとした瞬間、ルオーネを中心に白い光が溢れだした。
「なっ!」
マユーネが驚いた声を上げる。
鎌は光に押し戻されているかのように、ルオーネに触れることが出来ず、マユーネがいくら力を込めて鎌を押し込もうとしても、ルオーネに切り込むことが出来ずにいた。
マユーネは一旦鎌を引きルオーネから距離をとると、理解できない出来事を前に戸惑いを隠すことが出来ず、興奮気味に叫ぶ。
「どういうこと!? なんでそんなに魔力を得たの!? その色は何!?」
発光現象自体はまれに起こることが知られている。悪魔が急激に魔力を得た際に、身体の外に溢れだした魔力が、光となってはっきり視認出来るほどになるのだ。ただ、魔力が光として悪魔の身体から溢れだすには相当に急激な魔力上昇が必要である。なぜいきなりそんなことが起こったのか、マユーネは理解できずにいた。
また、もう一つ普通と違うのは、光の色である。悪魔がその身に宿す魔力は悪魔が人間に犯させた罪により系統が異なる。その魔力の系統により色が違い、大体は黒や青、赤に近い色が多い。白い光など、マユーネは視たことも、聞いたこともなかった。
さらによく見ると、ルオーネに抱かれている善人の傷がみるみる治っていく。善人の傷がほぼ治りきると同時にルオーネからの光の放出も収まった。
傷が治る善人の様子を見ていたマユーネの頭に更なる疑問が浮かぶ。それは、人格の高さが先ほどと違うのである。
ルオーネやマユーネたち悪魔は、人の格を糧にしているため、人間の人格を見極める眼を持っている。
先ほどまで悪魔の眼には高い人格として映っていた善人が、どうしたことかいまや稀代の大罪人に見える。
マユーネが二人を観察していると、ルオーネが静かに立ち上がり、右手を静かに前に出して、ひと言呟いた。
「『救済の罪』発動」