ファーストコンタクト
拙作ですが、よろしくお願いします
天気予報じゃ小雨のはずだろー
僕はバケツをひっくり返したような豪雨のなかを足早に歩いていた。自然、傘を持つ手に力がこもる。
僕が通う聖黒高校から自宅まで徒歩で約5分。いつもは近いと感じるこの距離もこの雨の中だと少しというか、かなり遠い。
ふと眼をあげると大通りの信号下に色とりどりの傘が見えた。さすが市内で一番大きい通りなだけあって信号待ちの人も多い。それならいつもどおりと言えなくもないが、今日は微妙に違っていた。
腰まで届きそうな長い黒髪。整った顔立ち。細身だが女性らしいふくらみをもった肢体。
間違いなく美と頭に付けられるであろう少女が信号待ちの人だかりの中にいた。
いや、人だかりの中にというのは語弊があるだろう。少女は人だかりの中央に何をするでもなく立っているだけだが、その半径2メートル以内には誰もいない。信号を待っている人たちは少女を避けるように歩道の両端によっている。
理由は簡単に想像できた。少女はこの豪雨の中傘を差していなかったのだ。だからこそ僕は少女の容姿を確かめることができたのだが……。確かに自分が傘をさしている隣にびしょぬれで雨にうたれている人がいたら気まずいだろう。
横断歩道まであと少しというところまで近づいたあたりで歩行者用信号が赤から青に変わる。
ラッキーと思いつつ、歩行者の群れに目を向けると例の少女を避けるように、というより遠目に眺めながら横断歩道を渡っているところだった。
しかしその少女は信号が変わったというのにそのまま微動だにしない。どこを見ているのか分からない眼で前をひたすら見つめているだけである。
家まで走れば1分か……。
気づけば、少女に傘を差し出していた。少女が雨に濡れないように傘をさす。少女はこちらを見つめてくる。
近くで見ると思っていたよりもさらに可愛く心臓が大きく脈打つ。
「ど、どうせ安物だから」
思わずそんなことを言っていた。
って違う! それは「いいの?」とか言われたらいうべきことであってこれじゃ意味が分からない。
僕の後悔をよそに少女は意図を察してくれたようで、悲しそうな笑顔と共に傘を受け取った。
予想していなかった表情に感じた疑問が頭の中で形になる前に、断続的な電子音が響く。
見ると青の歩行マークが点滅している。
ヤバッ、ここ変わるまでが長いんだよな。
「じ、じゃあ」
少女の表情が気になったが、別れを告げると、急いで横断歩道を渡る。
横断歩道を渡った後、一度だけ振り返ると少女は感情の読み取れない瞳でこっちを見つめていた。