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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ
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第25夜 同景-前編

 真夏。

 ありきたりな表現であるが、照り付ける日差しが容赦なく肌を焼く。


 自宅から最寄りのバス停まで徒歩15分。そこから最寄りの駅までバスに揺られる事30分。

 約束の時間は15時であるにも関わらず、駅前ロータリーの中央にそびえたつ時計塔の表示は14時を少し回ったところだ。

 今日は時が過ぎるのが遅い。

 朝から何度時計を見たか。その度に自分が期待する経過時間の10分の1も過ぎていない。

 

 「あつい・・・」

 あまりの暑さに思わず口から漏れてしまったが、おかげで少々の冷静さが入り込む余地ができた。

 なにも1時間も前から約束の場所に馬鹿正直に立っている必要はない。

 それに気付いた自分は、ちょうど時計の反対側に位置するファストフード店に向かおうと歩みを進める。


 店内はまるで砂漠のオアシスのようだ。

 ひんやりとした空気が誠に心地よい。

 

 赤地に黄色のマーク、主にハンバーガーを販売している店舗で飲み物だけを注文するのは些か申し訳ない気持ちもあるが、これからの予定が不分明な以上出費は最低限に抑えたかった。

 「えと・・・あの、コーラをひとつお願いします」

 「サイズはSMLとございますが、いかがいたしますか?」

 Mサイズでと言いかけたところでLサイズに訂正する。

 この暑さだ水分はいくら摂っても摂りすぎるという事はないだろう。


 「ご一緒にポテトやハンバーガーはいかがですか?」

 一瞬悩んだが、小腹が減った事に気づいて、フライドポテトを注文する。

 「そうしますと、+100円程でハンバーガーのセットにもできますが、よろしいでしょうか?」

 

 注文を終え商品を受け取り、席に着く。

 相手が到着したら連絡が入る事になっているが、念の為ロータリーが見渡せる窓際の席を陣取る。

 「・・・はぁ」

 自分の自己主張の弱さに、思わずため息が出てしまう。

 レジのスタッフに言われるがまま、結局トレーにはハンバーガーとフライドポテト、それにかなりサイズの大きい飲み物が置かれていた。


 小腹が減った事もそうだろうが、体は塩分も欲していたようだ。

 自己主張の弱さを悲観しつつ、おやつ・・・にしては立派な物を口に運ぶが、若さも手伝いあっという間に平らげてしまう。

 平らげてしまうと、駅前に佇んでいた時と同じ気分が全身を襲う。


 焦燥感とでも言うのだろうか。

 どこか浮足立って、思考も集中できない。

 集中できないが故、今日は食事時に箸を落とすわ、出掛けに財布を忘れるわ・・・碌なことが無かったし、そういう事の積み重ねが焦燥感をより濃厚に育て上げている。


 「あんた、そんな日は何やってもダメなんだから、気をつけなさいよ」

 出がけに母から投げかけられた言葉が、脳内で妙にリフレインしている。

 普段、成るようにしか成らないと思って生きているが、こうも気持ちがソワソワしていると確かに気を付けなければならないな、と言う気にもなる。

 もっとも、その気を付けようという気持ちも持続出来ないほどに、自分の心は地に足がついていない。


 連絡が来るまで少しぼーっとしていよう。

 何も考えず、何も感じず。

 程なくして、店内のざわめきが次第にその輪郭をはっきりさせてきた。


 様々な会話が耳に飛び込んでくる。

 学校の話、家庭の話、飼っているペットの話。

 晩御飯は何にしようかしらとか、こうも毎日暑いとやる気が失せるとか、それらの会話には実が無い。

 

 遠くから大声で電話で話しているサラリーマンの声が聞こえる。

 あーもうそれはそれは、納期には絶対間に合わせますから!と言った内容もさることながら、こういった場所で大声で話す事が周囲にとっていかに迷惑をかけているかの方が気になってしまい、つい目を向ける。

 幸い、近くに座っている他の客も自分たちの話に夢中で大して気にしている様子はないし、その客たちの会話もそれなりのボリュームで盛り上がっている。

 

 「これがまさに杞憂ってやつか」

 中学の時に『杞と言う国の人が"空が落ちてくるかもしれない"と心配した話が言葉の由来らしいぞ』と国語の教師が教えてくれた故事成語だが、普段淡々と授業を進める教師の何気ない小ネタが妙に面白く感じられ、おかげで故事成語に関連する部分だけは得意だったな、と連想的な思考をしたところで、サラリーマンの陰に隠れていた客に見覚えがある事に気付く。


 直井だ。

 もちろんそこに居るのは直井だけではない、よくよく見れば普段学校でつるんでいるメンバーが勢ぞろいで、直井様ご一行の様相を呈している。

 ・・・いや、これはまずい。

 楽しくなるハズの今日の予定が、ここをどう乗り切るかでその結果が変わってしまうのは火を見るより明らかだ。


 どう対応すべきか逡巡する暇もなく、大声で電話をかけていたサラリーマンと言う目立つ障壁が席を立ってしまった事であっという間に見つけられてしまった。

 もし倉持がこの場にいたら、同じようなスピードで発見できたかもしれないが、直井が自分に向けている感情はそれとは真反対に位置するものだ。


 「あーあー楽しくおしゃべりして盛り上がってるのにムカつくやつの事思い出しちゃったなー!!!」

 明らかにこちらに向けられた発言が難なく耳に届く。

 店舗入り口正面にあるレジスペースを挟んで左右に広い店舗の、端同士に座っているのだ。そのボリュームがかなり大きく、怒鳴り声に近い。

 迷惑サラリーマンが霞むほどの突然の大声に店内が一瞬静まり返った。


 「あーあいつかー!」「こりゃ一丁やっちゃいますか!?」「駅の反対側に人が通らないところあったなー」

 口々に脅しとも取れる軽口を大声でまくしたてる。

 只でさえ浮足立っていたところへ、慎重な判断が迫られる場面が唐突に沸いたところで、思考回路が早々につながる事はない。

 どうすべきか、と言う思考の試みもあっという間に迷路に潜り込んでしまった。

 

 まずいまずいまずい。

 これは絶対に面倒な事になる。

 何が最適なのか、どうすれば被害を最小限に抑えられるのか、その答えを出す為の作業が一向に進まない。


 脳内の会議室が仕事を放棄し始めた瞬間、ポケットの中の携帯端末がブブブッとメッセージが届いた事を伝える。

 思考の迷路から脱出したところで、携帯端末に表示された文字を確認する。


 『ついたよ~おまたせ!どこにいる??』

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