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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ
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第24夜 二輪

 今夜はスリリングだ。

 いや、スリルでない方が珍しいと言えば珍しいから、今夜"も"スリリングに訂正した方が良いかもしれない。


 気がつけばそこはバイクの上。

 スピードメーターは100kmあたりを中心に右や左に行ったり来たりしている。

 ミラーを見ると、後ろからは謎の機械が追ってきている。

 追ってきているだけで、特に何かされている訳ではない。


 何かされている訳ではないが、得も言われぬ謎の恐怖感が全身を蝕んでいる。

 理由は解らないが『逃げなければならない』のだ。

 一度止まってみたらどうだろうとは思うのだが、本能がそれを許さない。

 

 死んでしまえばそれで終わる世界に居て、本能がそれを許さないというのは少々厄介な気もするが、そんな事を考えていても抗う事が難しいのであれば一旦問題は脇に置いておこう。


 顔を上げるとそこは田舎道。

 建物もなければ他に道を走る車やバイクもない。

 広々とした道を猛スピードで駆け抜けていく。

 

 曲がり角はどれも緩やかであるが、基本的にブラインドコーナーだ。

 曲った先に何があるのか、その先の道の形状はどのような物なのかは、曲がってみるまで解らない。


 例によってバイクなど運転した事など無いのだが、スムーズに運転出来ていることが実に不思議だ。

 右手のハンドルを捻るとスピードがあがる。レバーはブレーキだ。

 右足にも踏み込める形状のペダルがついていて、これはどうやらブレーキのようだ。

 左手のレバーを握るとブレーキほどではないが、スピードが鈍くなると同時にエンジン音が増大し動力が伝わらず空転しているような感覚がある。


 左足のレバーなんだろう。

 そっと踏み込んでみるが反応はない。しかし遊び程度の動きがあるようだ。

 あれこれ試していくうちに左手のレバーを握りこむと足元のレバーが動くことが解った。

 

 左手のレバーを握りこみ足元のレバーを一回踏む。

 スピードメーターに表示されている数字が5から4に変わった以外は何かが変わった様子はない。

 よくわからないまま左手のレバーをもとに戻す。


 ・・・!!

 急にスピードが落ち体が前のめりになる。

 危うく振り落とされそうになったが、辛うじて踏みとどまった。

 メーターのスピードを表す表示が極端に下がった。

 

 なるほど、これはシフトか。

 どれもこれも、自分では知らないはずのことを、体は勝手に理解し実践している。

 夢ならではの都合の良さではあるが、理不尽な事もこう毎度毎度続くとそれに対して突っ込む気力も失せる。


 意識を手元から現実に戻していく。

 いや、いくらリアルでもこれは夢である。夢実とも言えば良いだろうか。


 背後に迫る“何か”は、間違いなくこちらを追い詰めてきている。

 このまま走り続けていれば逃げ切れるのか? それとも・・・


 そう思いつつもう何度目かも覚えていないコーナーを曲がり切った刹那。


 道が消えた。


 目の前に開けたのは、まるで崖のように切り立った谷間。

 舗装されたアスファルトが空中で千切れ、唐突に終わっている。

 ブレーキをかけようとしたが遅かった。


 タイヤが宙を切り、同時に空を飛ぶような感覚が全身を襲う。

 重力に逆らえなくなる瞬間のふわっとした感じはとても好きだが、こういう状況ではそれを素直に喜べる訳もない。

 谷底へ向かって落ちていくにつれ、バイクと自分の体が離れ、距離が出来る。


 落下速度は幾分バイクの方が早いだろうか。

 谷底は谷底と認識しているだけでその姿を現している訳ではない。

 道が途切れた時に対岸は確認できなかったから、正確には谷底ではないのかもしれない。

 絶体絶命のピンチであるこの瞬間に、そんな事を考えている自分がなんだかおかしかった。


 こうなってくると後は落ちるしかないのだろう。

 高さは解らないが、残された時間はほんの数秒でしかないはずだ。

 せめて、一瞬で終わらせてくれる事を心の底から願う。

 

 夢の中での死の訪れは、現実での目覚めを意味する。

 夢とは言え痛覚は惨たらしい程にリアルだ。

 であれば、なるべく痛みのない方法でと考えるのは自然な物であろう。

 

 重力が襲いかかる中で、背後から機械音が近づいてくる。

 あの、謎の機械もまた、こちらを追って飛び込んできたらしい。


 落ちてゆく。

 重力に逆らわず、飛び出した時の運動量が加味された形で物体が落下してく。

 ただそれだけで終わってくれればそれで良い。

 一瞬、救いとも思える思考をしたところで、背後からやってきた機械音は当然気持ちの良い物ではない。


 落ちてゆく。

 風を切る音に交じる機械音は、それがすぐそばにまで迫っている様子を伝えてくる。

 

 落ちてゆく。

 彼方に地面らしきものが見えてきた。

 

 落ちてゆく。

 落ちてゆく。

 落ちてゆく。


 あぁ・・・あと少しだ。

 早く、早く・・・!!!


 唐突に背中に燃えるような痛みが広がる。

 機械音は耳をつんざく程に大きいが、痛みの衝撃でもはや音は気にならなかった。

 

 どういう理屈で痛みが発生しているのか分からない。

 食われているのか、焼かれているのか、傷をつけられているのか。

 理由は解らないが、先ほどから追ってきた機械はやはり自分を襲う目的があったのであろう。


 どうだ、念願かなって嬉しいか?

 首を捻って状態を確認しようにも、重力と風圧に阻まれてかなわない。

 もっとも、見えたところで対処のしようもないのであろうが。 


 覚悟もクソもない。

 無用な痛みを与え続ける機械を背に、早く終わってくれと祈るばかりだ。

 痛みがゆっくりと意識を蝕んでゆく。

 蝕まれるスピードは真綿で首を絞めるように感じられるが、実際にはもっと早いのかもしれない。

 意識の中の痛みの割合が広がるにつれ、視界が狭まっていく。最終的には目を閉じてこの耐え難い痛みに耐えていた。

 

 唐突に、耳に入る音の種類が変わる。

 あまりにも急な変化に目を開けると、そこには無機質なコンクリートがあった。

 ようやくたどり着いた解放の場所。

 一瞬の強烈な痛みを知覚する事が無いまま、今宵もこの世界が終わる。


-----

 遮光カーテンから漏れる日の光とスズメ達が気忙しく鳴く声が、少しずつ脳内に浸透していきそれと引き換えにゆっくりと目が覚めていく。


 目を覚まして一番最初に訪れる感情は、激しい絶望感。

 それは今日も変わらない。


 目覚まし時計に表示されてるデジタルの日付が昨日よりも一日進んでいる事だけが唯一の救いともいえる。


 シャワーでも浴びよう。

 今日もまたいつもと変わらない日常が待っているんだから。  

普段は125ccのバイクに乗って移動する事も多いけれども。

人間には二輪車に跨る事でしか得られない幸福のスイッチがDNAに組み込まれているのではないかと思えるくらい、バイクってのは乗るだけで楽しい乗り物ですな。

バイク愛好家の皆様、くれぐれもご安全に。

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