第23夜 練習-中編-
C#メジャーの曲のイントロがまもなく終わる。
一旦無音になり、その小節の3拍目から始まるAメロの最初の出だしはG#の音だ。
自分がこの曲をまじめに歌う日が来るとは思っていなかったが、曲自体はとても良い曲だと思う。
高校1年の女子生徒が描く世界観は共感できる部分とそうでない部分があったが、曲もストーリーもよく練られていた。
最初に歌詞を読んだときは恋愛モノなのかと思ったが、よくよく読み込んでいくと恋愛が主体と言うよりは同世代の悩める人達に向けた応援ソングのようだ。
3分半ほどの物語を描き出した張本人ではない為、そこに込められたメッセージの本当のところは定かではない。それでもその歌詞から自分なりに感じた事もあり、それなりの解釈もした。それを素直に、想いを込めて歌い始める。
物悲し気な歌い出しから、時に強気に、時に喜ばしい気持ちを、声で表現しながらメロディに乗せる。
歌い始めたら調子が出てきたのか、表情にもそれが表れているのが自覚できた。
「今~君に、誓うよ。」
歌い出しと同様、最後のフレーズもボーカル以外の鳴り物はない。
それだけに、ここをいかに歌うかでこの曲の評価も変わってしまうかもしれない。
デモテープを聞いたときにそう感じていた自分は、そこを外さないように、かといって力みすぎないようにキッチリと、口から放たれたメロディとそこに乗っている言葉を、そっと置いてくるように歌い終える。
「え~~~!!!予想の100倍くらい良いんですけど!!!」
「須田ちゃんが歌うより全然イメージ通り!弾いてて気持ちよかった~!」
終わった瞬間から、須田と高橋はハイテンションだ。
人前で歌うのは気恥ずかしく、歌っている最中、歌詞を確認する為に手元の楽譜を見る以外は、ずっと倉庫の奥の壁と天井の境目を見つめていた。
倉持は、なぜか涙を流している鈴木の手を握っている。
「いや、ちょ・・・どうした??」
女性の涙を見慣れていない自分は、突然歌わされた緊張でいささか上ずった声で問いかけた。
「鈴木さん、なんだか感動しちゃったみたいで」
倉持がおっとりと答える。
手を握られている鈴木はただただうんうんとうなずくばかりだ。
「少なくとも、ここにいる全員、くにーちゃんが歌うことに賛成だと思うんだけど、どう?」
答えに窮してどぎまぎしていると、不意に倉持と目が合う。1秒にも満たない間だが、とても幸せな時間だ。
「絶対に歌ってほしいです。」
意中の相手にこのように言われては、断る理由はないであろう。
「・・・となると、誰がドラム叩くのかって話になると思うんだけどね」
高橋が両手の人差し指を立て、ドラムの真似事をしながら言う。
こうして、不本意ながらバンドのボーカルで歌うという役目を任されたその日に、もう一つ大切な任務を託されたのだった。
「くにーちゃん、鈴木さんにドラム教えてくれないかな。」




