第22夜 抽腸-中編-
その状況が目に入ったと同時に血の気が引いた。
尋常ならざる腹部の痛みから、そこに起きている異変は惨状であろう事は予想できた。
しかし、その予想はるか上を行く光景を理解するまでには少々時間を要する。
恐る恐る視線を腹の方へ向ける過程で、まず横にわたった一本の木材が目に入った。
柱は自分の体の中心、左右に一本ずつあり、てっぺんの木材を支えているようだ。
視界の高さから、どうやら自分は何かの台の上に固定されている事が解る。
ちょうど腰の位置のあたりに、車のハンドルのような形状のものが見え、そのハンドルとてっぺんの木材との間にはロープのようなもので繋がれているようだったが、この部屋の明るさではそれが何であるかを詳細に確認する事が難しい。
てっぺんの木材からは何やら見慣れない物が垂れており、その見慣れない物にそって視線を腹に向けてゆく。
視線が行きついた先は、自分の腹の中だった。
あまりの痛さに、自分の腹がどのような状況なのか、正確に判断する事が出来ない。
視線の先はほぼ赤色に染まっていたが、これだけ長いものが自分の体内から出ているという事は、それが何であるかは高校生の自分にも容易に想像ができた。
想像を絶する光景に、思考回路までもが硬直してしまう。
どれくらいの時間、見つめていたのだろう。
やがて、首の筋肉が限界を迎えガタンと頭を戻す。
見るともなしに視界に入った天井には、自然光と松明が放つ揺らぎのある光との不気味な共演が映しだされている。色温度とコントラストの差が極端である事も、雰囲気を作る一翼を担っているようだ。
相変わらず体を動かすことは叶わない。
声を出すこともままならず、ただただ激しい痛みだけが襲ってくる。
血に染まった自分の腹ではあったが、激しい出血があるようにも感じられない。
死ななければ目覚めないというルールの中で、成す術がないというのは痛み以上に肝を冷やす状況だ。
もはや時間の感覚と言うものがない。
外光に変化がないという事は、時間の経過はさほどではないのであろう。
この状況で息絶えるには、果たしてどの程度の時間が必要なのだろうか。
激しい痛みは増すことも減ることもない。
不意に訪れる激しすぎる痛みが意識を飛ばすこともままあるが、残念ながら今襲ってきている痛みは意識を失うか失わないかの絶妙な強さだ。
コツ・・・と、音がした。
そうだ。
今宵の夢は不気味な音から始まったのだった。
コツ、コツ、コツ。
どうやらその音は足音だと気が付いた時には、視界の端に人影があった。
深く沈んだ目が、自分の視線を捉える。
ブロンドの髪と髭に覆われたその顔からは、男性だという事以外の一切の情報を得ることはできなかった。
男は視線を逸らすと、大きなため息をつくように低い声を短く発する。
視線を解放されたと同時に、おおよそ次の展開に察しがつき、全身から冷汗が噴き出す。




