第21夜 -通知-後編
<夏休みの間に映画でも観にいかない?家の近くまで迎えに行くよ。>
不意に訪れた、青春の1ページに刻めそうな年上の女性からの連絡。
<解りました。いつにしますか?>
今の感情は、フワフワと心が浮つくような気分とでも言うのであろうか。
そんな気分を表に出さないように、母親の握ってくれたオニギリを頬張りつつ素早く返信をする。
何をしているのかとこちらを見つめている生井には、ほんの少し待ってもらう事にしよう。
「ごめんね、急な用事で。」
素早く入力を終え、生井との雑談を再開する。
「いいんだよ、気にしないで。でも良いなぁ、俺も新しいスマホ欲しいなぁ。」
生井は中学入学と同時に、共働きである親から買い与えられたそうだ。
「やっぱり旧いのは処理速度みたいなの遅いの?」
元来が乱暴な性格ではないが故、購入後4年経った今も特に不具合なく使用している。
「遅いし新しいアプリ入らないし。カメラも画質悪いしねぇ。」
特に他愛もない会話を続けていると、ポンペン!と通知音が鳴る。
<じゃ、今夜あたり通話しない?>
今まで文字だけだった相手からの意外な申し出にほんのちょっぴりドキっとした。
どんな表情をしたのかまるで自覚はないが、目の前に居る生井には何か察するものがあったようだ。
「くにーちゃん、もしかして・・・それ、相手はこの間の女子??」
自衛隊駐屯地での祭りが終盤に差し掛かる頃、不意に背後から肩を叩かれた。
誰だろうと思って振り返ると、そこには宵闇の中に浮かぶ提灯の光に照らされた端正な顔立ちをした女性が居た。
「はい、これ。」
差し出された手元にはプログラムの空白部分を破った紙に、誕生日であろうことが推測できる8ケタの数字に続き、megumiと書かれていた。
「あんたの事、結構探したんだからね、はい。」
再度促すように手を差し出されたので、訳も解らず受け取る。それがメッセージアプリの連絡先である事を理解する頃には既に相手が踵を返していた。
「連絡待ってるからね。」
そう言うと、先ほどよりもよりフレンドリーなスマイルでウインクをして去っていく。
それら一連の様子は、モテない男子高校生同士連なって歩いていた為、しっかりと全て観察されていた。
故に、自分以上に恋愛に疎い生井にも、今やりとりしている相手が誰なのか容易に推測されてしまったようだ。
仲間内でのキャラクターの違いであるのか、ナンパに失敗した蕪木と違いこういった事で冷やかされるポジションに居ない自分は、質問攻めにあう訳でもなくその後も特にこれと言った質問がある訳では無い。これはこれで少し寂しいような気持ちもあったが、自分の事をネタにされるのは得意ではないのでホッとしている気持ちの方が大きかった。
「ま・・・まぁ・・・」
生井の発言になんと返して良いか解らない自分は、再度ごまかそうと試みるものの、生井の追及は止まらない。
「いいなーみんなで一緒に行ったのに、くにーちゃんにだけそういう事が起きて」
そういう事とは一体どういう事なのかよく解らないが、追撃を受けうろたえている自分などお構いなしに通知音が鳴る。
「くにーちゃん、モテモテじゃん!」
決してモテている訳ではないのだが、それをここで否定するのも嫌味のような気がしてごまかしつつ画面を見る。
次はどんなメッセージなのだろうと、少しワクワクした気持ちが一瞬で冷める。
差出人には自分がにやついていた相手ではなく、カタカナで「ワタナベ」と表示されていた。
・・・そうだ。
あの日、連絡先を教えてもらったのは「高石 恵」だけでは無い。
ゆっくり話をしようと声を掛けたものの、立場上アチラコチラに呼ばれて結局殆ど話が出来なかった「渡辺」も居たのだ。
<今夜、時間があるなら話をしないか。>
話をしようと言う用件は全く同じなのに、相手が違うとこうも気分が変わる物なのか。
ついさっきまでの楽しい気分が一瞬で吹き飛んでしまう。
「ニヤついたりしかめたり、今日のくにーちゃんは表情豊かだねぇ。」
コチラの気分など相手に解る訳もないのだが、生井が能天気に弁当を頬張る姿を見て、浮かれていた自分に気が付いた。
ほんの少し、気を引き締める必要があるのかも知れない。
結局、あの日以来、渡辺とも高石とも核心をついた話は出来ていないのだから。
作者である自分が学生時代にはポケットベルが全盛期でした。
便利なようで不便だったあの時代。
今のように聞けばすぐに返ってくる便利なツールがなかったからこそ、相手を思いやる時間が育まれていたようにも思います。
世の中、過ぎてみなければ解らない事も多いですね。




