第20夜 尿意-前編-
歩いている。
ただ歩いている訳ではない。
明確な目的を持って歩いている。
現実世界では訪れた事のない場所。
どこかのショッピングモールのような造りをしているが、数段の階段がそこかしこにあったり、何故この場所にエスカレーターが必要なのかが解らないあたりから、夢の世界であるという事に気付く。
目当ての場所が見当たらず、だんだんと焦りが出てくる。
何処だ、何処にあるんだ。
現実世界ではそれがどこにあるのか、言葉が解らなくとも矢印とピクトグラムで丁寧に案内されているが、ここにはそれらしき表示が見当たらない。
いくつの階段を昇り降りしただろう。
いくつの棟を移動しただろう。
いよいよ以って限界だろうと思われた瞬間、それは唐突に目の前に現れた。
ブルーとピンクのドアが見える。
迷わずブルーのドアを開け、壁に一列に並んでいる白い陶器に一目散に駆け寄る。
ファスナーを下ろすのに手間取りながらも、間一髪間に合った。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」
尿意を解放しながら、大きなため息をついた。
それ程差し迫っていたのだ。
入ってきた入口のドアを開ける。
そこには先程早足に通り抜けてきた風景が広がっている。
はて。
自分には何かしなければならない事があったような気がした。
しかし、目的が思い出せないので、夢の中とは言え初めて訪れたこの地を楽しもうと思った。
最後に上ってきた階段の脇に館内の案内図があった事を思い出し、そこへ向かう。
だが、進めども進めども、一向にさっきの場所に辿り着かない。
不思議な気分になっていると、不意に尿意が襲ってきた。
先程解消したばかりだと言うのに、一体何故なのか。
慌てて先程のトイレに戻ろうとするも、やはり同じ場所に辿り着く事が出来ない。
普段は一度通った場所は忘れない程度には地理を把握する能力があるのに、同じルートを同じように戻っても違う場所に辿り着いてしまう。
夢の中ならではの理不尽さに若干の苛立ちを覚えるも、段々と精神を蝕んでいく尿意が苛立ちを焦燥に変えていく。
先程の場所に戻れないのならば、別の場所を探すより他ない。
歩く。
探す。
上がる。
探す。
下る。
探す。
自分でも、何処をどう歩いてきたのか解らなくなるほどであったが、L字の角を曲がり終えた瞬間、男性と女性のマークを象った一枚の扉が目の前に現れた。
ドアを開ける。
先程のそれとは異なり、今回は男女の区別なく使用されることを前提とした造りになっていた。
便器の蓋と便座を上げる。
おもむろにファスナーをさげ、狙いを定めることなく、尿意と焦燥を解放する。
スイッチを押すと水が流れた。
夢だからと言って、特別な仕掛けがあるわけではなく、現実と同じ風景だ。
身支度を整え、ドアを開ける。
気が付いてからと言うもの、トイレの事しか頭になかったのはなんだかもったいない。
せっかくだから、こちらの世界も楽しもう。




