第19夜 冷汗-前編-
ガンガンと冷房が動いている音が静まり返っている体育館のようなホールに響く。
ゴォウと言う音の割に機能していないように思えるのはそこに集まる人数の多さのせいであろう。
一般客が二階にぐるりと設けられた観客席に座る中、我々高校生一行は2佐である渡辺と体育教師の三浦の案内で一階に設けられた席に腰を落ち着ける。
「貝塚くん、左側の上見てみ?」
静かなざわめきのみが聞こえる中、蕪木が貝塚にそっと耳打ちをする。
「お・・・おぉ!実は右側にも何人かいるんだよ」
右側に視線を向けた蕪木は、小さな声でイエス!とつぶやいた。
自分も見るともなしに視線を向けると、どうやらミニスカートから覗くすらっとした脚とその奥にある物が高低差によって露わになっているようだ。
演者の息遣いまで聞こえてきそうなこの場所は、ブラスバンド部所属の自分や生井からすると特等席であるが、それ以外の面々にとっては面白味の薄い場所であろうと思ったがどうやら杞憂であったらしい。
道理で先ほどからサトスも青柳もキョロキョロと周りを見回している訳だ。
いかにもモテない男子高校生らしい解りやすい理由ではあるが、少なくとも演奏中は静かにしていてくれそうだ。
指揮者のアナウンスが入り、程なく演奏が始まる。
学生のブラスバンドとは異なり、金管楽器・木管楽器・打楽器の他に、ギターやベース、コントラバスなどの弦楽器、果てにはシンセサイザーまでが所狭しと並んでいる。
最初の演目は誰もが知っている有名テーマパークのテーマ曲をマーチにアレンジした曲だ。
一糸乱れぬその演奏に一瞬心を奪われかけたが、隣に座っている渡辺がどういう人物なのかが気になって演奏に集中する事が出来なかった。
死ななければ目覚める事の出来ない夢。
その夢の中で幾度となく出会っていた人物が現実に目の前に居る。
なんとも言えない薄気味悪さが全身を駆け巡り、暑さが理由ではない汗が背中を濡らしていた。
最初の曲目が終わり、2曲目が始まる。
誰もが知っている最近流行のポップスを自衛隊員が演奏し始めた。
「キミはこう思っているんじゃないかな、なんでだ?と。」
耳に残るオープニングのギターリフが終わりジャーンとドラムの音が鳴り始めた頃、渡辺がそっと話しかけてきた。
「そしてきっと不安や恐怖もあるんだろうとは思うが、大丈夫。実は私も同じ気持ちだ。」
いかにも屈強な姿をした大人が自分と同じように不気味さを抱いている事に驚いた自分は思わず渡辺の顔を見つめる。
「ま、そんな訳だからリラックスして演奏を楽しんでくれ。」
にこやかにそう言われた直後、ふっと肩の力が抜け少しずつ演奏が耳に入るようになってきた。
粒の細かい、きれいなハイハットの音を心地良いと感じる頃に2曲目の演奏が終わる。
「さぁここで各楽器の紹介を始めたいと思います!」
指揮棒を振っていた隊員のアナウンスと共に各楽器を担当しているメンバーが自分の楽器の音色を紹介していく。
楽器には興味のないメンツは相変わらず二階席に熱い視線を送っている。
まったく一体何を観ているんだろう。
この時代、そういう物を見るのにスマートフォンがあれば事が足りるだろうに・・・と彼らの視線を追った時、またしても背中に冷たい汗をかく事になる。
自衛隊の音楽隊の演奏ってどこか独特で好きなんですよね。
イベントで観る事が多いからか、観客席との距離感も近いし選曲も聞き手重視な感じがして。




